赦しの鐘 その103 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 それでももう一度友人たちと杯を酌み交わし、彼らを外まで見送ったジェシン。歩き始めたヨンハが、数歩行ったところでソンジュンと肩を組んだ、というか一方的に肩に手を回したのが見えた。ソンジュンも嫌がる様子なく歩いていく。ああ、ヨンハの野郎も気づいてたか、と思う。

 

 ユンシクとユニはよく似通った容貌の姉弟だ。先にユニと親しんでいたジェシンにとってはユンシクがユニによく似ている、と思ったが、ソンジュンは全く逆だ。何と自分の親友によく似た方だろう、と思っただろう。そこまでは普通だ。

 

 しかし、ジェシンもヨンハも、ソンジュンがどんなにユンシクを大切な友人、親友と思っているかを知っている。老論の儒生たち、おそらくは実父や周囲の大人たちの忠告や脅しに近い叱責などものともせず、知り合ってからずっとユンシクの親友であり続けている。これは予想に過ぎない。ソンジュンは周囲から親しくする相手の選別について何か言われていることなどおくびにも出さないで来ている。成均館では、だからこそユンシクにその刃が向いた。直接、間接的にユンシクは嫌がらせを言われ、されたものだ。それでもソンジュンはユンシクをかばいながら傍から離れなかった。

 

 執着しているのはソンジュンの方なのだ。

 

 ユンシクは素直で賢い、いい青年だ。美しい容姿に見合う、と言っていい美しい筆跡は、今官吏として大層重宝されようとしている。何事も書類仕事がついて回り、ジェシンの方がそれに振り回されそうな塩梅だが、ユンシクは報告の主旨を、過去の資料からうかがえる同じような案件の回答例、解決例をきちんと引き出してまとめてしまうという、書類作成の腕を披露しつつあった。まとめる力があるのだ。それは出会ったころのソンジュンが言っていた。小科の試験の際、下書きもせずに、一気に解答を試巻に書き下ろしたその自信と、垣間見えた美しい筆致におどろいたと。それを誇るでもなく、所在無げに佇む姿がソンジュンの目を余計に引いたのだろうが、優秀さと裏腹の謙虚さは、儒学を深く学ぼうとしていたソンジュンにとっては美徳の権化のように見えたのかもしれない。ユンシクは人懐っこいが、決して自分から仲良くしてください、と言えるほどではなく、人当たりは良いが懐の中に誰も入れずに来ていたソンジュンが自ら近づいたからこそ二人は知己となり友人となったのだ。ソンジュンが初めて欲した友人。その友人ユンシクに良く似ているユニ。

 

 どうして、と思っただろう。どうして先に、人の花嫁となる前に出会わなかったのだろう、と思っただろう。彼が望んで友人となり、友人としてさらにその仲を深め続けることのできる最高の相手であるユンシクの姉。彼の姉なら、と思っただろう。その上今日は一段と美しく、幸福に溢れた花嫁の姿で目の前に現れたのだ。呆然とするのは当たり前だったろう。恋をしたことがないだろう堅物のソンジュンが、心を許すという行為を初めて与えた親友ユンシク、その歓びを知り、ジェシンやヨンハも彼の心に場所を貰った。だが、初めてソンジュンの心にその場所を占めたのは、キム・ユンシクただ一人なのだ。そのユンシクの姉。初めて会ったのに、すでに人の、それも自分の仲間の花嫁となってしまっていた。

 

 とられた、先を越された、と思っただろうか。

 

 屋敷に戻る。そろそろあいさつ回りを一巡りして、宴の場を後にしよう。イ・ソンジュンの胸の内を慮ったとて、ジェシンは万が一ソンジュンと同時にユニに出会ったのだとしても、ユニを取られるつもりなど一切ない。ユニが自分の妹でないなど、自分の妻にならないなど、傍に居なくなるなど考える事さえない。ユニは俺のものだ。そして俺もユニのものだ。俺にはユニが必要で、ユニは俺がいいという。その間には何もいらない。挨拶を終え、勝手に宴はつづけてもらえばいい。俺はユニの傍に、ユニの閨に行く。妹から妻になるユニ。全て俺のもの。幼い日のユニも、少女のユニも、そして大人になったユニも。これから母になるユニも見るのは、俺だけでいい。

 

 俺の花嫁だ。悪いな、イ・ソンジュン。こればかりは、天に感謝する。

 

 

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