赦しの鐘 その93 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 機嫌は悪くなかった。結果待ちとはいえ、力を出し切った四人は、緊張しすぎのユンシクがいるとは言えども、落ち着いて放榜礼に臨んだ。最初に呼ばれるのは丙科。合格者の中でも順位の低いものからだ。

 

 その中に、四人の名はなかった。ユンシクが驚いているのが分かり、ジェシンは温かな気分になった。そんなに自分を過小評価することはないと、いつもユンシクには思っていた。彼は、成均館が初めて見た世間で、自分がもの知らずだという事に打ちのめされたと言っていたことがあった。確かに、知っていて当たり前の両班の常識を知らないという事はあった。けれど、仕方がない事だ。ユンシクは田舎で育ち、その上病弱で学堂にすら行けなかったのだ。逆に言えば、ユンシクはそのまっさらな心で、正しく成均館で学び、急成長していた。元からの優秀な頭脳をさらに磨き、世間知を少しずつ身に着け、大人に近づいたうえで受けた大科だ。解答だって、しょせん紙の上で儒生たちが論じることなど理想論、誰ともそう差があるわけではない。ただ、そこに自分の考えがあるか、どれだけ深く広い知識を持っているか、それを自分の中に取り込んでいるかが勝負の分かれ目なのだ。審査するのは、王宮の頭脳たち、そして学問に秀でている王様自身。彼らの前では、若い儒生たちなど皆頭でっかちのひよっこだ。

 

 そしてやはり、乙科の発表でユンシクの名は呼ばれた。そして続けてヨンハの名も。徐々に埋まる人の名。そして乙科最後の名が呼ばれた後、静けさがその場を覆った。

 

 残るは三名。この大科でその優秀さを見せつけた、これからの王宮の頭脳となる者たちだ。そしてその中に、ジェシンとソンジュンは残っていた。

 

 拳を握りしめた。甲科。誉れある成績。俺は。

 

 ユニにふさわしい男になる、第一の階段を昇った。

 

 素直に喜びがあふれて来る。そしていきなり、ジェシンは己の名が呼ばれるのを聞いた。

 

 「探花!ムン・ジェシン!」

 

 隣に立つヨンハが、ぐ、と声を忍ばせたのが分かった。三位。それはいい。忘れていた。三位、探花という事は、この放榜礼において役目が与えられるのだ。

 

 前に進み出る。今まで成績を発表された者たちは、頭を下げるだけだったが、ここからは違う。王様の前に進み出て、お言葉を頂き、その上でサモに飾り花を戴くのだ。その最初を飾るのが三位、探花。二位と一位のものには、王様が手ずから花を挿してくださる。が。

 

 「壮元!イ・ソンジュン!」

 

 王様の傍に控えるよう言われ、ジェシンは斜め下を見つめながら、ソンジュンが進み出て来るのを見た。最後まで追い越すことができなかった超優秀な同室生。けれど誇らしい。仲間となれたこの年月が、戦い終えた爽快さしか残さなかった。

 

 王様から花を頂き、ソンジュンはジェシンをちらりと見て目元を綻ばせ下がっていった。二位、榜眼のものは、会試の時点で一位だった者らしく、王様からお褒めの言葉を盛大に頂いていた。

 

 そこからがジェシンの、そして皆の地獄だった。王様にとっても困った時間だったろう。何しろ花がつく順位を取ったのがジェシンなのだ。他に変わりようがなく、ジェシンは役割を果たさねばならない。

 

 王様の傍に、一位、二位を差し置いて残されていたのは、合格者に、花を挿す役目があるからなのだ。

 

 王様が一人一人に声を掛けるのに付き従い、花をサモに取り付けるのが花童の仕事だ。その名にふさわしいのはユンシクみたいな可憐な美青年だろうと思うのはジェシンも同じなのだが、仕方がない。その上ジェシンの手つきは不器用だったようで、なかなか花がささらない。ガシガシと皆の頭に突きさすので作り物の枝の方が折れそうだった。王様はもう見ないふりをしていた。笑いをこらえて震えていたヨンハには盛大に突き刺してやったし、ジェシンの顔を見ることもできないユンシクにもしっかりと押さえつけてやった。皆グラグラと頭を揺らされながら花をジェシンに突き刺されたため、後に、王様のお言葉が何だったか覚えていないという苦情が出たぐらいだ。

 

 とにもかくにも、大騒ぎの中勝ち取った三位、甲科合格。

 

 ジェシンは胸を張って、ユニの下に走って帰れる。

 

 

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