㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
手射礼は勝ち抜き戦だ。上手く組み合わせたのは誰なのか、ハ・インスの属する組とジェシン達中二坊組は、対戦するならば決勝でしか当たらない組み合わせだった。勿論インスは開会の時に煽りに来た。わざわざ。対戦できるといいが、と。傍に立つカン・ムは無言で、もう一人、下斎生が胸を張って後ろに立っていた。イ何某というその青年は弓の腕前を見込まれてのことなのだろう。インスがこちらをあざ笑えば、一緒になって声を立てて笑い、にやにやと追随していた。ぴったりとインスとカン・ムの後ろに従う姿は、ただの家来にしか見えなかった。
けれどインスの組は強かった。インスもそれなりに高得点を射貫くが、カン・ムは9点以下は出さなかった。イ何某も図星がないだけで7から9点の間で安定していた。勝つための組み合わせだから当然だろう。だが、中二坊組は更に会場を沸かせた。
ジェシンとソンジュンが満点、図星を連発していくからだ。期待はされていたが、期待以上だったのだ。ジェシンはうまいと言われていても人前で弓を引くことは今までなかったし、ソンジュンは初めての手射礼だ。二人は全くもって弓を引く姿勢が違った。ジェシンは速射だ。構えて狙って放つまでの時間が一瞬なのにぶれずに的を射貫く。ソンジュンはゆっくりと弦を引き絞り狙いをぴたりと定めて確かめるように射る。共通するのは、立つ姿勢だ。射台に立ち足を肩幅より広く開くと、まるで大木のように体が安定するのが誰にも分かることだ。微動だにしない下半身はまるで根のようだ、と誰かがつぶやいた。
「はあ・・・。」
と座り込むユンシクに、ほれ、とジェシンが竹筒を渡した。中の水を呷りながら、手の様子を観察する。練習のし過ぎでユンシクの掌、特に弦を引き絞る支店となる親指と人差し指は皮が幾度もめくれている。皮の指ぬきをさせてみたが、弦を引く感覚が分からないと結局使う事はなかった。血はでていないようだ、と安心して、大人しく水を飲むユンシクの隣にどかりと座ると、ソンジュンがヨンハと共にやってきた。
「お前らの親父様、来てたなあ。」
「・・・王様のお供だろ。」
「そうですね。お供ですね。」
王様は忙しいだろうに、開会から臨席していた。寵臣である領議政チェ・ジェゴンと、それに次ぐ左議政のソンジュンの父、それに次ぐ重臣であるジェシンの父もいた。ついでにハ・インスの父親も。
「俺たちが接待するわけじゃねえ。」
「でもさ、王様の御前でいいところ見せてほしいだろ、自分の息子にはさあ。」
「弓で出世できるんなら、みんなもっと上手いだろうよ。」
「王様にとっては娯楽ですよ、娯楽。」
冷めている重臣の息子二人に、ヨンハはほとほと呆れたようにユンシクの肩に手を回した。
「こいつらはさあ、王様より他の人に見てもらう方が張り切ったかもしれないぜ。」
「ヨリム先輩、ソンジュンもコロ先輩も、張り切ってすごい点数取ってくれてるじゃない・・・。」
ユンシクは網巾を外して汗を拭き、巻き直す前にその紫色の布をきゅ、と抱きしめた。ユンシクも頑張って得点を重ねているが、図星は一度もない。それでも6点以下は取っていない。平均8点台だろうか。全く問題ない成績なのだが、いかんせん比べる相手がジェシンとソンジュンではかないっこないのだ。
「頑張ってるじゃないか!それに見ている限り、しり上がりにお前は狙いが定まってきているぞっ!ほらほら巻いてあげよう~姉上様の心づくしの御守りだろ~その網巾は~俺にはないけど~。」
「てめえはまず出ないだろうが・・・弓も引けねえし。」
「そうなんですか?」
「ああ、こいつは武道はからっきしダメだ。」
足も遅い、と言ったジェシンに、ヨンハはい、と歯をむいて見せ、綺麗に巻き直してやった網巾を大事にさするユンシクに釣られたかのように、一緒になって自分の額の網巾を押さえるジェシン達を見て、大きなため息をついた。
「王様よりも、親父様たちよりもさ、テムル。こいつらはお前の姉上様が応援に来てくださった方がよっぽど張り切ったぜ。」
内緒話のように言われて、ユンシクは不思議そうに首を傾げ、そして笑った。
「そうかな。うん。僕は張り切るけど・・・多分コロ先輩が一番張り切るよね!」