赦しの鐘 その43 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 黙り込むジェシンに、ユニは深く首をうなだれた。わがままを言っているのは分かっている。けれど、ずっと、そうずっと一緒にいるのが当たり前だと思ってきたのだ。今は成均館に寄宿していて毎日屋敷にいるわけではないが、それは学ぶためであり、引き離されているわけではないし、ユニのことでも何でも、すぐに戻ってきてくれる。ユニの顔を見て、どうしたのだ、と案じてくれる。

 

 ああ、と思った。ユニは養父母には心配をかけないように、といい娘であることに気を付けた。無理をしているわけではない。真面目な質だろうユニにとって、養父母の望みは辛いことではなかった。彼らは、ユニが笑顔でいられるよう優しさをたくさんくれたし、ユニは母から教えられる女人としての教養を身に着けることは苦ではなかった。一つだけ、裁縫や刺繍の針仕事はうまくならないのだけれど。こればかりは母も苦笑して、得手不得手はあるでしょう、と諦めてくれた。けれど美しく書くよう鍛錬した字を喜び、母に何でも読んであげるだけの学識を身につけたことを喜んでくれる寛容な義両親に仕えることは、そんな包み込む慈しみをくれる二人に心配をかけないことだった。

 

 だから、時に、ほんの時にある不安はジェシンに話すことがほとんどだった。だって、ジェシンは気づくから。ユニの瞳の揺れに。ユニの膨らんだ頬に。どうした何かあったのか。なんだ何に怒ってる。言って見ろ。そう言って、飛びつくユニの瞳を覗き込んでにやりと笑ってくれるのだ。安心だった。飛びついても、幼いころからしっかりと受け止めてくれる腕と胸。今なんか、固い、と文句を言えるほど逞しい。でもユニも成長したからちょうどいいのかもしれない。いつだってユニを受け止めることを疑わないその存在が、本当は自分のものではないと気づきたくはなかったのに。本当の兄じゃないと。お前はよそ者だと。でもジェシンがそんなことを言うなんて思いもつかない。そうなのだ。実家が目の前に現れることで、他の者にそう言われることが怖い。もう周りは皆、ユニをジェシンの妹だと、ジェシンの特別だと、思ってくれなくなる。

 

 私のお兄様なのに

 

 「バカか、お前は。」

 

 言葉が降ってきた。肩が触れ合う距離で、そう、真上から。涙が浮かびそうで、無意識に噛んでいた下唇が痛い。痛いとわかったら我に返って、少し頭を上げたユニに、また言葉が降り注いだ。

 

 「お前が俺の傍から離れる事があるなんて、おれはこれっぽっちも考えたことなんぞない。お前こそ何を考えてる。父上はお前が選べと言ったのだろう?なら俺の傍に居るって言えばいい。」

 

 「でも・・・私はずっとお兄様のお傍に居たいのよ。ずっとよ!」

 

 「ずっといればいい。墓も一緒にするか?兄上の隣にしてもらおうぜ。兄上が喜ぶ。」

 

 ずっとよ、ずっと!何度言っても、それでいい、としかジェシンは言わなかった。ユニが目を吊り上げて、嘘じゃないのよ、ホントよ、ずっとよ、とジェシンの腕に縋り付いても、笑って言うのだ。それでいい、当たり前だろ、お前が俺の傍に居なくてどうすんだよ。

 

 とうとうユニは笑い出した。何だかおかしくなって。お兄様ったら、と笑ったせいでにじんだ涙をそっと拭くと、ジェシンはまた膝に載せた腕に頭をもたれさせて、ユニを見ていた。

 

 「大人の都合で、俺たちは一緒に育った。だけどな、都合が片付いたらそれで終わり、なんかにならないことは誰だって知ってる。父上も母上も、お前のことを手放したいなんて思ってない。だが、都合をどうにかつけないといけないことが残ってるってことだ。お前の実家の方々が悪いわけではもちろんないし、うちの両親が悪いわけでもない。だが、すり合わせが必要な時期に来た時、感情に目をつぶってやらねばならないことがあるんだ、と俺は思う。そこを無視すれば、もっと先に大変になりこじれる。実際、こんなにお前が辛い思いをし、父上や母上がお前を手放したくない気持ちに蓋をし、俺がこうやって駆け戻ってくることになっているのは、最初に起こったその「都合」から時が経ちすぎてしまったからだ。仕方がない事だが、もうこれ以上の時をかけてはならないのだろうな。でもな、ユニ、『都合』のせいで俺たちが一緒にいたことはなしにはならない。俺はお前が俺の傍で育ってくれて、これからも一緒にいてくれて・・・そのきっかけは何にしろ、お前との縁は永遠だ。」

 

 心配するな、お前の弟は良い奴だ。それは心の中でつぶやいたジェシンだった。

 

 

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