赦しの鐘 その18 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ヨンハの好奇心も、流石に本業が成均館での学問の日々であるから、なかなか行動的にはなれなかった。したくても無理なのだ。成均館で学ぶことは非常に厳しい。講義も高度、課題も多く、毎月末日には試験もある。時に王宮で王様の前での口頭試問だってあるのだ。これは選ばれた儒生だけだが。いくら不良学生とはいえ、ジェシンもヨンハも自分の頭脳にそれなりに誇りを持っている。生活態度をいきなり改めることもどこか自尊心が邪魔してできなかったが、一時の沸騰したような反抗心とは別に、学問に浸かっていく自分もいることを二人とも感じていたから、自然に興味のある講義から成均館の学問に戻っていきつつあった。

 

 ジェシンはあの後の帰宅日に、出来上がった説話集二冊を貸本屋に取りに行き、結局三冊ともユニに渡したらしい。喜んで抱きしめてた、とどこか吹っ切れたようなジェシンの姿に、あの日のうろたえた様子は見られなかった。

 

 「何の心境の変化だ?」

 

 「何がだ?」

 

 つぶやきに聞き返すジェシンに、お前のことだよ!と怒鳴りたかった。自分の好奇心を満たすためにちょっとばかりでしゃばってみたのだが、それは面白そうと思っただけでなく、矢張り親友として、あの日のジェシンのうろたえた様子が気がかりでもあったからだ。ほんの少しだけだが。心配したのに、とはその気がかりの占める割合からすれば少々大げさな感想だが、確かに少しは心配したのだから、とヨンハは気持ちを静めて言った。

 

 「いや・・・説話集を妹殿に渡しにくそうにしてたじゃないか・・・。」

 

 「あ?ああ。だいぶ迷ったけどよ。」

 

 ジェシンは大きくため息をついた。引っ掛かりはなくなってはいないのだな、と分かるほどには大きく。

 

 「何度か自分でも確認してみたが、まあ・・・お手本みたいな整った字だろ。特徴が似てる似てないというより、達筆な人ならあれぐらいの字は書くだろう。例えば右筆の部署の奴とか。」

 

 王宮には、書類を清書する部署がある。王様にお見せするものや、正式な通知、宣言などはすべてその部署が清書する。当然、字の上手が集められている。

 

 「引っかかったのは、俺があの字を見る前に、あいつの顔を見てしまったせいかもしれねえ。余計な情報が先に頭に入っちまったんだ。綺麗な字ってのは似る、というか手本をまねして書けるからうまくなるってことだろ。だから世の中には字の上手い奴がいるもんだ、という事でいいんじゃねえかと思ってよ。」

 

 それに、とジェシンは頭を掻いた。

 

 「本を注文してるって言っちまってたしよ。楽しみにしているのに、あんまり待たせちゃかわいそうだろうが。」

 

 砂糖を吐きそうだ、とヨンハはげっそりとした。

 

 

 だが、ジェシンが心配したような、字にユニが引っ掛かりを覚えることはなかったが、ユニが本を自分で贖いたいと思う気持ちを起こしてしまったのは計算外だった。ユニは今まで、屋敷にある本、ジェシンの物、ヨンシンの物、ヨンシンや父が買って来てくれたもの、などで十分だったのだが、ジェシンが今回与えた説話集が大層面白かったらしい。世の中には沢山本があることは分かっていたが、屋敷の中のものは限られている。特に義兄二人のものは儒学に偏り、せいぜいジェシンの持ち物の中に詩集があるぐらいだ。

 

 「お母様。私は外出してはいけませんか?」

 

 「・・・絶対に、というわけではないが、あまり娘が出歩くものではないのだよ、ユニ。」

 

 「でもお母様、私は本屋にだけ行きたいのです、他には寄り道しません。」

 

 「本が欲しいなら、貸本屋に屋敷に来てもらえばよいでしょう。」

 

 「お母様、でも本屋さんが持ってこられるのはお店にあるものの、一部でしょう?私、たくさんの本の中から自分が読みたい本を探してみたいのです。」

 

 「・・・そうね・・・お父様にも聞いてごらんなさい。お父様のお許しが出たら・・・。」

 

 ジェシンの両親はユニに甘いのだ。めったにわがままを言わないユニが、お願いおねがいとねだったものだから、父など瞬時に陥落した、とはのちに母に苦笑して教えられたジェシン。

 

 とにかくユニは外に出る機会を勝ち取った。下女一人、下人一人の供を連れて、貸本屋に行くのだ。

 

 

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