箱庭 その46 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「拙い回答にございました。お聞き苦しかったと拝察します。」

 

 そう頭を下げるチェ師に、部屋を出ていった若者たちを追うように縁側に出て、チェ師の居間に通された王様は首を振った。

 

 「『朋』の解釈など、余はあの者のように血の通った回答はできぬ。何通りの回答があったとしても余のものは最低点しかとれぬであろう。」

 

 少年ではないか、上出来である、と頷く王様に、チェ師はそれ以上は言わなかった。外からは少しばかり賑わいが伝わってくる。こんなに人が大勢いることなど、常の書院にはない事で、人の気配だけでも賑々しい。

 

 「先生。」

 

 外から声がかかり、そのユンシクが茶を運んできた。いつもならユニの役目だが、今日は顔を出さないつもりなのだろうし、チェ師もそれでいいと思っている。

 

 ユニは美しいのだ。

 

 息子ヨンダルからも聞き、世間から多少はいる噂によると、女色は大層淡泊で、学者のような王だとチェ師も理解していた。しかし、ユニは今花開くように娘としての成長を遂げていた。化粧をしなくても、着飾らなくても、見る人が見ればめったにいないと言えるほどの美しさで、それは父親代わりのチェ師ですら認めていた。すらりと伸びた体は、世の女人としては背の高い方ではあったが、白い肌、豊かな頬、潤みを帯びた黒い瞳は人の目を惹きつける輝きを放っていた。

 

 最近、ジェシンやソンジュンが少しユニを意識しているのを、チェ師は感じ取っていた。ただ、ここで彼らを預かっている間、間違いを犯すようなことをさせるつもりもなく、ユニがまず彼らへ抑止力を発するだろうとも思っていた。ユニには彼らより年上であるという意識があり、姉としての立場で彼らに接している。それがユニにとってここにいる気持ちの整理の手立てだと理解していた。そこに隙は無かった。ユニが今以上の暮らしを望まず、この書院で暮らし続けることにもろ手を挙げて賛成しているわけではない。良縁があるなら、ユニにも女人の幸せをつかんでほしいと思っている。しかしそれはユニが望むなら、である。

 

 できるだけ男の目に晒す必要はない、それがチェ師の考えであった。それこそ王様でも。少女のユニをかつて壮年の両班が花妻にしようとした事実があるからこそ、娘として育ったユニを今こそと思う男はもっと増えるに違いないのだ。

 

 まあ、今ユニは男に囲まれているわけだが、とは思っているが不安はない。王様の供は男だらけで、ユニは狭い書院の一画で彼らの前で働いているのだから。だが、息子ヨンダルがいるし、内官や武官の目があることが安心の一つだ。厨から出ることはないだろう。

 

 「本来拝見するはずだった午後の講義にも余はいてよいだろうか?」

 

 「彼ら若い儒生たちのための講義でございますが。」

 

 「新たな気持ちで受けてみたい。お願い申し上げる。」

 

 「彼らも気を引き締めますでしょう。それならば、ぜひ。」

 

 そう話す二人の前に、ユンシクは茶を並べていく。いつもならユニが先生の前で茶を淹れるのだが、ユンシクではまだ薫り高く茶を淹れられないので、先に淹れてから運んでこさせたようだ、とユニの気遣いにチェ師は感謝した。

 

 「そなたたちも一息入れるのだな。」

 

 そう話しかけられたユンシクは、盆を火鉢の傍らに置いていたが、びくりとして体を固くした。先ほどの回答の滑らかさを忘れたかのように、また王様に怯えている。しかし、何とか答えた。

 

 「はい、王様。少しばかり休息を頂き、軽食をいただきます。あ・・・。」

 

 そこでユンシクはチェ師を思い切り振り仰いだ。

 

 「先生、姉が・・・あの、お客様のお供の皆様には軽食を差し上げますが、お客様のお腹のお具合は、と尋ねるよう言いつかっておりました・・・。」

 

 「ほう。そなたたちは昼食をとるのか?」

 

 身を乗り出した王様に、ユンシクは身を竦ませながら答えた。

 

 「姉はおやつだと申しております・・・。僕たちが子供だからお腹がすくだろうと、一口二口、午後の講義の間腹が鳴らないほどのものをいつも用意してくれるのですが・・・。」

 

 ほう、姉のう、と頷いた王様は、

 

 「ではぜひ、一口馳走になりたいのだが、よろしいだろうかとそなたの姉に頼んでくれぬか、キム・ユンシク。」

 

 はい!とまた身を竦ませたユンシクは、慌てたようにチェ師の居間を出ていった。

 

 

 

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