箱庭 その41 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 三日後などすぐにやってくる。前日まで里長自ら、または遣いの者が慌てふためいていろいろ聞きに来ていたが、雲書院は何事もいつも通りにしていた。王様はおそらく直接書院に来られるはずだろうが、大掃除せねばならぬところなどないほど書院は毎日きちんと人の手が入っている。それは書院の一日の暮らしが、儒生にも染みついていて、仕事がなされているからだし、それは書院の主チェ師の教育方針が徹底しているからに他ならない。

 

 ただ、ユニは前日には、書院の者たちのための食事の下ごしらえをするのに忙しかった。夕餉は申し訳ないけれど冷たいものになります、とは断りまで入った。朝餉を作る時に握り飯やおかずなどを用意しておいてくれるという。王様一行の宿泊先での夕餉の支度に協力するため、不在になるからだ。誰も文句は言うはずもなく、それこそ自分たちで粥を炊いてみようか、とまで相談したぐらいだが、チェ先生に、あまり人の仕事場に入るものではない、と諭された。

 

 書院の一日はいつも通りに進んだけれど、人の出入りなど何だか慌ただしさはどうしても伝わり、四人の儒生も少々浮足立っていた。ユニは何しろ仕事が増えているのだから忙しい。落ち着いているのは先生だけだった。

 

 

 「大体・・・王様ってのは勝手なんだよ。」

 

 とぶつぶつ言ったのはジェシンだった。何しろ王様がこの書院に来るのは午後以降だと先生の子息からの知らせにあったはずなのだ。なのに朝、講義が始まってすぐに、ユニが転がるように講義の部屋までやってきたのだ。

 

 「せ・・・先生!いま里から遣いが来て・・・王様がすぐにこちらにおいでになると・・・知らせるようにと・・・もう川筋の道を上ってこられているようです・・・。」

 

 チェ師は静かに書物を閉じると、目顔でソンジュンたちに頷いた。皆も書物を閉じ、立ち上がったので、きょとんとしていたユンシクも慌ててそれに倣った。ちょんとソンジュンを肘でつつくと、お出迎えだよ、と囁き声で教えてくれたので、流石に緊張が一度に襲ってきた。

 

 「ユニ。この刻限であれば、昼時に軽食をご用意したほうが良いかもしれない。どうにかなるだろうか。」

 

 静かにそう言ったチェ師に、ユニはくるりと瞳を回した後、腹を決めたように笑った。

 

 「米があります故、どうにかなりましょう。いえ、どうにか致します。」

 

 そう言うと、厨に向かって走って戻っていった。それを見てチェ師は薄く笑った。

 

 「お前たちも、あれぐらいには肝を据えるよう、精進せよ。」

 

 

 

 そのまま靴を履き、門に向かったチェ師と儒生たちは、坂の下に見えている一行を目で捕らえた。騎乗の者が四名。そのうちの一人が王様だろう。そして徒歩の供が皆兵なのが服装で分かった。約10名ほどか、とみているうちに、一騎が先駆けて馬を駆けさせた。

 

 「父上!」

 

 そう声を上げて馬から飛び降りたのは、二十代後半に見える青年だった。外套をひらめかせて馬の綱を握りながら、頭を軽く下げた。

 

 「里を見回る前に、書院の見学をご所望されまして・・・予定外で申し訳ありません。」

 

 「別に我らはいつも通りのことしかできぬ故、何という事もないが、一行の人数だけはっきり教えてくれぬか?ユニが困る。」

 

 「荷持ちの小者は宿舎に行かせました故、今は護衛を入れまして総勢15名です。」

 

 門の陰で遣いに使いに来たまま震えていた里の男に、ユニに15名と告げて参れ、と命じたチェ師は、それ以上は口をつぐんだ。

 

 馬の綱を門前の低木に結わえたチェ師の子息は、名をチェ・ヨンダルという。それは自己紹介される前に、王様がその名を呼んだことから知れた。

 

 ヨンダルは馬を結わえると、再び少し坂を下った。そして先導するように一行の少し前をまた歩いてこちらに向かってきた。すると、ヨンダル、と言う呼びかけが先頭の馬の乗り手から聞こえ、その人が飛び降りたため、後ろの二人の騎乗者も同じように馬を降りた。そしてすたすたと坂を上りはじめ、瞬く間にヨンダルを伴って首を垂れるチェ師たちの前にたどり着いた。

 

 「チェ・ヨンシル先生。お会いするのを楽しみにしておりました。」

 

 丁寧に頭を下げたその人こそ、現王、イ・サンだった。

 

 

 

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