箱庭 その12 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 きっかけを作ったのはユンシクだった。ユンシクはある意味ほぼ派閥とは無関係に生きてきたと言っていい。南人の学者として生きた父を持つから一応派閥は南人だろう。だからこそ老論に属する母の実家からは父の死後疎遠にされた。しかしそのいきさつなどはうっすら知っていても、親戚を含めて対応したのは母や姉だ。ユンシクは床に熱のある体を横たえていたのだから。年少でもあった。知識としての派閥なのだ、ユンシクにとっては。それはその思想や政治目的が少しずつ違う、そういう意味にしかならない。

 

 それでもうっすらとは分かってはいる。けれど実感はない。聞くしかなかった。なぜならユンシクは明るいヨンハもぶっきらぼうだが優しいジェシンも、そしてまじめだがその真摯さが好ましいソンジュンも大好きだからだ。書院にきて数日のソンジュンは、年が同じであることもあってすぐに親しみをもてた。最初は大層力のある家の子息で大層な秀才だと聞かされ構えて見たものの、物腰は穏やかだし、ユンシクにも丁寧で礼儀正しかった。ただ、姉のユニを引き合わせたときには少々挙動不審になっていたが、それはジェシンの時も見たことのある態度だったので、他家の娘に対してはいきなりは慣れないものなのだと納得していた。雲書院の自らの面倒を自ら見るという方針にも何も文句を言わず、行動に素直に指導を求めたし、投げやりな態度も取らなかったソンジュン。次の日からすぐに始まったチェ先生との講義の日々に真剣に取り組み、空いた時間には端座して本を読む姿に、秀才とはこういう人かと尊敬の念を抱いた。ソンジュンも、同年のユンシクには好意を持ってくれたらしく、親しい口を利くのに時間はかからなかった。話をしてみたら、見た目通りの真面目な青年で、ユンシクはますます好意をもった。そんなソンジュンに唯一敵意を見せるのがジェシンだった。これには困ったのだ、ユンシクは。なぜならユンシクはジェシンも大好きだったから。

 

 「ねえサヨン。」

 

 ユンシクは、ほぼジェシン一人の仕事となってしまった薪割りをするジェシンから少し離れたところにしゃがんで声を張った。近くに行くと薪をたたき割ったときに鋭く裂けた木片が飛ぶので、この辺りに居ろと厳命されているのだ。斧が薪に当たる音もあり、ある程度大声で喋らないと会話にならない。

 

 「あ”?!」

 

 とジェシンも結構な音量で応えると、あのね~、とユンシクは膝を抱えた格好で尋ねた。

 

 「ソンジュンのこと、嫌い?」

 

 がっ、と薪が真っ二つになった。細かい木片がぱらん、と散らばる。斧は薪割り台にしている木株にめり込んでいる。斧が固定されたその状態で柄から手を離し、いくつか割り終わった薪を乱暴にひとところに集め始めたジェシンを見て、ユンシクは傍に寄った。ユンシクは細かい木くずを集めるのだ。火を焚きつけるときにちょうどいいのだ。

 

 しばらく沈黙が続いた。薪がこん、ごんとぶつかる音とかさかさと木くずが小さな山になってこすれる音が小さくなって初めて、ジェシンとユンシクの目が合った。

 

 「・・・別に・・・あいつが悪いわけじゃねえのは分かっている。殴りかからないだけでしばらく勘弁しろ・・・。」

 

 そう言って少し目をそらしたが、それを許さずずっと見つめ続けるユンシクの視線に負けて、ジェシンは大きくため息をついた。

 

 「・・・嫌いじゃねえよ・・・嫌うほどあいつを知っているわけじゃねえ。俺が嫌いなのは・・・俺の兄上を殺した奴らだ。」

 

 ユンシクはここに来て初めて自分がどうも踏み込んではならないジェシンの傷に触れたのだと分かって真っ青になった。知らなかったのだ、ジェシンの家の事情なんて。聞きもしないし、語られることだってなかったから。知らなくて当たり前ではある。それでもこんな薪割り場で吐露させる話ではないぐらい、ユンシクにだって分かる。

 

 「・・・ごめんなさい、サヨン・・・。」

 

 「別に、いい。ただ、胸糞悪い話だから、話したくなかっただけだ。」

 

 だから、とジェシンはユンシクに言った。

 

 「俺の家の件に関しては、ヨンハに聞け。俺はまだ、冷静に話す自信がねえ。」

 

 「聞いてもいいの?」

 

 頷くジェシンにぺこりと頭を下げて、ユンシクは集めた木くずをユニに渡すために厨に向かって走った。

 

 

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