箱庭 その11 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 最初の数日はこんないい状態にはならなかった。どんなにチェ先生が学問に派閥は関係ないと言っても、ソンジュンとジェシンの実家は実際に仇敵の間柄であると言えるぐらい関係は悪かったからだ。そして勿論子息である二人はそれをしっかりと知っている。

 

 ジェシンの腹立ちは、派閥同士の争いのせいで実兄が流刑の憂き目にあい、無実だと分かった時には流刑地で亡くなってしまっていたという目にあいながらも、自分の父親がその報復をしないでいることに尽きる。勿論若き俊英だった兄を残酷にも死に追いやった敵対派閥の奸計を目論んだ者たちが最も憎い。けれどその者たちを告発せず、逆に詫びのように与えられた重い役職に黙って就いている態度のほうが許せなかったのだ。ジェシンの反発は、半々の割合で我が父に向かっていた。

 

 理性では、老論の家の子息であるソンジュンが何も悪くないとはよくわかっていて、それでもまだ傷の生々しい兄を失った胸は感情という名の血を簡単に流す。ソンジュンの父親が、老論という派閥の筆頭の人間であることも災いした。どんなに奸計の首謀者ではなくても、そのことを許した、目をつぶって勝手をさせた、その責任者であることに間違いはないのだ、ジェシンにとっては。

 

 ソンジュンとしては、勿論先年大騒動になった小論に属する官吏の贈賄によると言われた馘首事件は、醜い大人の争いだった。未だ少年と青年の間の年齢なのだ。その時ソンジュンは完全に少年だった。しかし、意気軒昂にソンジュンの父を訪ねてきて自分たちの功を訴える者たちがいたり、様々にソンジュンの父に意見を貰いに来たりと人が群がっていたのは覚えている。そして父が怒っていたのも。数人の老論の者たちに対して、非道なことには非道なことが還ってくると。だから、ジェシンが老論を憎む意味も分かる。自分の父は、ことが起こってから知ったのだろうとはいえ、自分の派閥を守るために、その行き過ぎた行動に口をつぐんで知らぬふりをしただろうから。そして、密かに修正をしたにもかかわらず、死に至った者がいて、その一人にジェシンの兄がいることも知っていた。少年と言えども噂は回るのだ。あの頃、老論のソンジュンより少し年上のものは勢いがあり、老論の子息たちをわざわざ待ち伏せしてまで悪口雑言投げつけていた。喧嘩沙汰もあった。ソンジュンはそういう事には関わらなかったが、その結末を手柄のようにソンジュンに言ってくる者たちだっていたのだ。その中には、ハ・インスという今や父の腰ぎんちゃくのようになっているハ家の当主の子息もいた。このインスのことがソンジュンは一番嫌いだった。その父親も嫌いだった。ねっとりとした話し方で、ソンジュンにすら這いつくばるように上目遣いで挨拶をしてくるのだが、それが逆に馬鹿にされているように思えるほど心がこもっていない。その頃には、ソンジュンは学堂での同世代の者との付き合いはきっぱりと断ち切っていた。礼儀として挨拶のみ。それを徹底した。聞きたくなかった。非道が合法になるなんて、儒学の精神に反している。反している者の意見など、聴くに値しない。

 

 ただ、実際雲書院にきて、ジェシンの震える握りしめた拳を数日見続けて、自分にとってはあの頃のあの事件は、やはり他人ごとであったのだと猛省した。非道に腹を立て、それを止めなかった父に腹を立て幻滅し、その父にすり寄る老論の者たちに嫌悪感を抱き、その非道の上に成り立った手柄を自慢するその子供たちをあきらめた。学問に没頭し、耳を塞いだ。それでよかったはずだった。ソンジュンの周囲は何も変わらなかったから。けれどジェシンは変わったのだ。周囲全てが。ジェシンの誇りが、夢が。家族すらも失った。家族への信用もだ。安寧の中にいた自分への怒りは、自分が所属する派閥への怒りなのだ。それを生身で受けたのは、正直ソンジュンは初めてで、数日、素知らぬ顔をしてはいても、やはり胸の内は動揺していた。

 

 だから、話し合うしかなかった。

 

 

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