㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニの前編集者は、双子が二歳になった月に育児休暇を終えた。フレックスが取れる職場故のメリットを生かし、夜討ち朝駆けの代名詞のような記者や編集者とは違う規則正しい編集者としての職場復帰を果たしたのだ。それは家庭において誰か専業で子どもの世話をするという今までの形ではなく、家庭でも大人が協力体制を整え、職場でも予定の立てやすい仕事環境を要求し提供してもらう、という方針を彼女が貫いたからだ。私が一種のモデルケースになります。職種や家族構成によって同じようなパターンが取れるわけではありませんが、企業側も変革が出来る余地があることを知ることは大切なことでしょう。私は幸運な結婚、家庭を持つことができ、なお聞く耳をもちチャレンジしてくれる職場に恵まれました。私のケースを利用して、企業側も働く側もお互いに納得できるガイドラインを更新し続けることが、上手くいくいかないの結果論ではなく、大事なのだと思うんです。そう言って、職場復帰前から双子の子育て実録記事を書くことで所属してきた編集部で元気に雑誌を作っている。
『ユニイ』として出した作品、仮題名から確定した『成均館の若木たち』はたちまちのうちに重版となり、すぐに連続ドラマ化のオファーがきた。歴史上有名な人たちが主役ではないのと、主人公が学生ほどの若者たちの群像劇という事で、若い俳優陣を多数出演させることのできる作品だったというのが評論家の意見だった。今脚本が作られていて、その内容に出版社と作者が了承を出すのが待たれている、という状態だ。
「先生、すごい活躍だわ。流石私の先生。」
絵本作家『ハヌル』の取材に来た前編集者は、にこにこと笑ってユニの手を握っている。どうして隣に座る必要があるのか、とダイニングの椅子に座るジェシンには首をかしげる事ばかりだ。取材はどうした取材は、と言いたいが、それはさっきなんだかんだとしゃべり倒していたので終わっているのだろうと口をつぐんでいる。
「もう次の作品に取り掛かってるんでしょう?何か必要なら、ムン君をこき使うのよ、先生。」
「オンニ、先輩は何でも相談に乗ってくれるわ、オンニとおんなじ。」
「そう?それならいいけど。ムン君が先生の仕事の邪魔しそうになったらすぐに言ってね。私がやっつけてやる。」
おいおい、と腰が浮く。俺がユニの邪魔するわけねえだろ、と声を大にして抗議したい。
「オンニ~、先輩が私の邪魔なんかするわけないわ・・・先輩は私にあ、あ、・・・」
「あ?」
前編集者はユニの手を握りながら首をかしげている。あ?とジェシンも首を傾げた。ユニ、ちゃんと反論してくれ、あ、で止まってないで。
「あ、あ~・・・とにかく先輩は大丈夫です、オンニ!」
「あはははは!分かったわかった分かりました先生、ホント可愛いんだから私の先生は・・・で、結婚式はいつ?」
「!」
「!」
飛び上がったユニと腰を上げたまま固まるジェシンを見て、前編集者は楽しそうにまた声を上げて笑った。
「じゃ、お幸せに!」
「なんですかその挨拶は・・・。」
大通りにタクシーを停めに一緒に出たジェシンは、仏頂面を前編集者に向けた。
「いいえ~。親御さんとも無事に和解できたし、君とも仲良しみたいだし、先生はますます可愛くなってるし、今日は良い日だわ。」
「何しに来たんですか・・・。」
「仕事に決まってるでしょ!いい記事書くわよ~。」
「それはよろしくお願いします。」
任せて、と胸を叩く彼女はこのままTOUCH先生ことアン・ドヒャン絵師のところに向かうのだ。双子のウサギちゃんシリーズ絵本を書く人たち、という見開き1ページの記事で、読者プレゼントに『ハヌル』のサインと『TOUCH』のイラストの色紙とウサギちゃんのイラスト入りマグカップのセットを用意するらしい。勿論色紙はユニとアン・ドヒャン絵師が書くのだが。
タクシーを停めたジェシンに、ありがと、と言いながら前編集者はにっこりと笑った。
「『あ』の続きね、多分、『先輩は私に甘いから~』だと思うのよ。あははは、本当にムン君は先生に骨抜きね!」
先生によろしく~、とタクシーに乗って行ってしまった彼女を、ジェシンは呆然と見送るしかなかった。