極秘でおねがいします その89 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「先に言っておくが、俺には二つの立場がある。それを踏まえた上で聞いてほしい。」

 

 ユンシクは大きな目を見開いてジェシンを見上げている。ユニとよく似ているその瞳に、ジェシンは視線を据えた。

 

 「お前の姉、キム・ユニさんは俺の仕事上のパートナーだ。それから、恋人でもある。この二つの立場だ。」

 

 ユンシクの口がぽっかりと空いた。

 

 

 「・・・全く気付いてなかったのか?」

 

 そう訊ねると、ユンシクはこっくりと頷いた。ユンシクたちと遭遇した取材旅行の際に、もしかしたら感づかれたかとも思ったのだ。ソンジュンはそのあくる日にユニの姿をはっきりと博物館で目にし、ジェシンが同じ場所にいたものだからしっかりと知ってしまったが、焼き肉屋の店の前でのジェシンの激昂した行動に、仕事上ではない焦りを見出されていたなら不振は行動だったはずなのだ。だが、それはジェシンがプロフィール不詳の作家『ユニイ』の担当編集者だと後に知ったユンシクにとっては仕方がないことなのだと理解できたのだろう。

 

 「もう、ユニさんがお前たち家族の前から姿を消して何年も経つだろう?」

 

 「・・・はい。僕たちは・・・僕も両親も、姉と連絡が最低限取れている限りは、姉が戻ってきてくれる意思がない限りこちらから押しかけたりしない、と約束して、わざと探さずにいました。」

 

 ユニはメールでユンシクにだけ安否を報告していた。最初の一年ほどは、金銭的なやり取りもあったからその回数はそれなりにあったが、何もなくなると本当に連絡自体は少なくなっていた。それでも、連絡をくれるだけいい、と話し合っていたという。

 

 「最初は・・・姉は家庭内でもしゃべらなくなりました。部屋から出てこなくなって・・・両親はきまりが悪いんだろうとか何をすねているんだとか言っていましたが、やはりだんだんかなり姉を傷つけたのだろうと分かると、今度は両親の方からも話しかけづらくなったようです。姉が家を出た日、両親は仕事、僕は大学に行っていました。戻ってきたら、近所の人が、ユニちゃんは独立されるのね、なんて言ってきて・・・。身の回りのものだけもって迎えに来た車で出て言ってしまいました。手紙があって・・・お世話になりました。出していただいた学費はいずれお返しします。奨学金は私名義ですから返済しておきます。スマホは解約しましたので、今までの連絡先は使えません。後日連絡いたします・・・で、僕にメールが来て、何度か頼んだんですが、メルアド以外は教えてもらえませんでした。電話番号も、現住所も。半年もたたないうちに、奨学金の完済証明書が送られてきて、間もなく今度は両親が奨学金以外に払った学費以上のお金が振り込まれました・・・。僕たちは、完全に姉から拒絶されたことをそれで知ったんです。」

 

 父は当初は怒り、母は泣きました、とユンシクは言った。些細なことを大げさに、と。けれど、姉にとっては些細ではなかったんですよね。大学では周囲の人に誤解され、遠巻きにされ、家では自分の望まないことに手を打って喜ばれる、その根底にあるのは決して姉の気持ちじゃなかった。周囲の者が勝手に判断する損得でしかなかったんですよね。

 

 「・・・人の家庭内のことに首を突っ込むわけにはいかないが、当事者であるユニさんは俺にとっては他人じゃない。ユニさんは俺の前の編集者の人や編集長に大事にされ、可愛がってもらって、人との距離感を取り戻していた。そろそろご家族と和解できるのでは、と皆判断したし、本人も前向きだ。だがその前に一つだけ確認したい。お前も、だが、ご両親も・・・どうしてユニさんが家を出ざるを得なかったから、なんとなくでもいいから自覚はあるんだよな?」

 

 僕たちは、とユンシクは頷いた。

 

 「ずっと・・・ずっと後悔しているんです。ちゃんと姉の苦しみに向き合わなかった薄情で軽薄な家族だったと。ソンジュンとソンジュンのお父さんの方が真摯でした。ちゃんと姉の被った理不尽を理解したうえで解決に当たり、我が家にも謝罪に来てくださったのに、姉を軽くあつかったのが僕たちだったんです。姉が許してくれるなら、今度こそお互いを思いやる家族になる、そう決めてます。」

 

 

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