㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニと前編集者は今も仲が良く、ジェシンにとっては先輩社員に当たるその前編集者が双子を出産してなかなか会う時間がない今も、時折連絡を取っているのは知っていた。あちらは双子の画像を良く送ってくるのでジェシンも見せてもらうこともあったし、絵本は最初、彼女と双子への祝いの気持ちを込めて書いた、全くプライベートのものが始まりだったことも考えると、絵本についてのやり取りも彼女としていることは察せられた。それに、オンニ、と親しみと愛情をこめて前編集者に甘えるユニのことを知っている身としては、確かにユニは恋愛ごとは前編集者に相談するだろう、と理解できる。
「先生はねえ、心配しておられたんだよ。君も言ったんじゃないのかな、自分たちの関係が知られたら、担当を外されるかもしれないって。最初はね、君が担当編集者になって、安心して頼れる良い方だ、学生の時の印象と変わらない、という事を言っていたようなんだけれど・・・。」
編集長は一歩下がって、コーヒーの紙カップを持つジェシンをつくづくと眺めた。そして自分の体を見下ろし、ジェシンの背中越しに見える、編集室に出入りする自分の部下たちを眺めてうんうんと頷いた。
「君はねえ・・・格好いい男だってこと、忘れてたよ。まあ、編集者を変えるとなった時、経歴含め担当に推薦する奴らの名前はならべても写真は見せてはいないんだけどね、まあ・・・写真まで載せたら誰でも君にするだろうねえ・・・。」
少し膨らんだおなかを撫でながら言う編集長に、褒められた礼を言うべきかジェシンは悩んだ。ああ、とため息をつきながらドアから出てくる同僚は、今から作家のところに行くのか、寝不足の顔をしている。気をつけないと僕みたいになるねえ、と編集長がのほほんと笑う。不規則なこの仕事は、健康面というよりまず、体格の多大な変化をもたらすんだよ、とまた腹をさすった。歩き出した同僚も、学生時代はサッカーをやっていたと聞いているが、なかなかに恰幅が良くなってきていると先日嘆いているのを聞いたばかりだ。
「恋バナ、楽しいそうだよ。先生の恥ずかしそうな報告を聞いていると、10才若返るんだそうだ。でね、彼女曰く、担当はそのままにしないと先生が気落ちするからダメだし、先生よりも君の方がちゃんと自制しているようだから目をつぶってくださいね、って言われたんだよ。これは、告げ口じゃなくってお願いだから、って。他から噂が入る前に、ご報告ってさ。君からは言いにくいことだろうからって。先生はさ・・・、君とのことに関しては、秘密じゃなくていいようだから、って。」
「先生は・・・。」
ジェシンは視線を少し落とした。
「俺は、学生時代は先生の弟との方に縁がありました。彼女とは二人っきりになったことだってない。けれど、よく知る彼女の弟と同じように、明るくきれいで、正しい人でした。兵役から戻ってきたとき、彼女に起こったことを聞いて言葉も出なかった。俺がその場にいたら、と今でも思います。あいつじゃない、彼女の相手は俺だ誤解するな、そう言ってやれた。例え嘘でも。その時に彼女に対して恋愛ごとの気持ちがはっきりあったわけではないですが、女っ気のない俺の中では、彼女は唯一の可愛い女性でした。それだけだったんです。担当者になった時、俺を昔の知り合いとして拒否されなかった、それだけで十分だったはずなんですが・・・まあ、何年かぶりに会うと・・・本当に綺麗になっていて、それだけじゃないですけど・・・。」
「君も先生に好意はあったんだろうけれど、それは先生の方も一緒だったってことだよ。まあ、ここで仕事の話をするのも何だけど、これは一つの予想だがね・・・。」
編集長は大きく息を吸った。
「先生の文が進化するよ。恋も愛も出会いも別れも、家族とのいざこざだって人生だ。先生はまた一つ人生を経験した。すぐじゃない。だけど君との関係は、先生の中でゆっくり昇華されて、いずれ・・・素晴らしい恋愛小説が生まれるんじゃないかな。『ユニイ』が書く恋愛小説、読みたいもんだよ。」
ま、プロフィールの件は先生と相談よろしく、そう言い残して、編集長は先にデスクに戻って行ってしまった。