㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
うれし恥ずかしの朝は、目覚めるとあっけなく一人のベッドで、ユニは早くから雑穀米の粥を炊いてくれていた。炒り卵と昨日と同じわかめのごま油いためを好みで載せ、たっぷりの椀で二杯。そして昨夜から重曹につけていたフキの茎をコチュジャンなどで炒めたものを口にすると。
「青臭く、ない。」
「そうでしょ!」
重曹水から引き揚げた時から、野草の持つ強いえぐみのある香りが消えていたのだそうだ。それでも心配で濃いめの味付けにしてしまった、という。
「本当はもっと簡単な料理だと思うの、当時は。でも私はこれが限界です。」
食生活実験とは言え、そこまでの再現はいらないだろう、とジェシンも思う。
洗い物は置いておいてください、と言ってくれるユニに、出勤時間が決まっているジェシンはありがたくお願いし、せめて使った器は、と汚れた皿や椀、卓上にある粥の入った土鍋を流しに置いた。そうして準備をしていると、ユニがソファのところでカバンの中を確認しているジェシンのところにやってきた。
おなかがすいたら、と思って、と差し出されたのはアルミホイルに包まれた固まり二つ。
「おかゆは土鍋で炊くし、炊飯器で普通に炊いたのをおにぎりにしました。塩味だけよ・・・。ちょっとまとまりにくかったから、食べるときは少し硬いかも。」
ジェシンはそれを眺め、食卓に使っているテーブルにも目をやると、そこには小さなおにぎりが皿に二つ、ラップをかけられて置いてあった。
「は・・・はははは!」
「もう・・・だってお腹すくんだもの・・・。」
朝食は7時。夕食は昨日は8時前だった。半日水だけで過ごすなんてことはめったにない。食事を抜いてしまう日はあっても、合間に菓子や何か繋ぐものを口にできる今の自分たちにとって、昨日は本当に辛い一日だったのだ。夕食を食べて心地が戻り、そして浮き立ってしまうほどに。
「助かるよ。水で腹は膨れねえって昨日重々わからされたからな!」
そう言いながら紙袋に入れてくれたアルミの塊を大事にカバンに入れ、ジェシンは玄関に向かった。振り向くとユニが見送りに来ていた。起きてからさりげなく観察していたが、歩き方が少しぎこちない。男であるジェシンには女性の性行為による体のダメージはわからないので、少し申し訳ない気分になる。
何しろジェシンはただただ幸せに気分を良くしてもらった一晩だったのだから。疲れどころか、絶好調なのだ。
じゃ、と一歩ドアから出れば、踊りだしたいぐらいに天気も良かった。おかげでその日はミーティングも新たな小説雑誌の構成の相談も、『ユニイ』への執筆依頼のスケジュール調整もサクサクとこなした。
昼過ぎに母から電話が入った。庭師の男がナズナを沢山とってきてくれた、と言うのだ。仕事を早上がりするのでもっていきましょう、と言ってくれているから会社の場所を教えた、という事だった。改めて男の名を聞き、玄関前の警備と受付に訪問者があることを伝えて一分後、おり返したかのように男が到着したと連絡があった。
慌てて一階に階段で駆け下りると、男が作業着姿で大きなビニール袋を二つも下げている。綺麗な今風のオフィスビルのエントランスに佇むその姿は中々にシュールな光景で、逆に風格さえ感じられ、ジェシンは感心した。
「申し訳ない!わざわざ回り道だったでしょう!」
ジェシンが駆け寄ると、堂々としていたように見えた男は、それでも少し居心地が悪かったのか、安心したような笑顔を見せた。
「いや。これからちょうどムンさんの家とここを挟んでま反対の地区の方の家の庭の手入れの相談に行くんで、ついでだから。」
ほら、と手渡された袋の中には貧弱な細い茎にちょんちょんと参画の葉やら実やらわからないものが生えていて、てっぺんに白い花が咲いたりつぼみだったりする草がぎっしり入っていた。
「これがナズナ。とってきたところだからよく洗ってくださいよ。湯がくぐらいで食えるらしいけど、まあ、沢山食うものじゃないってうちの母親が懐かしがってたよ。」
そう言って、その男の母親が子供の頃に食べていたナズナの汁について教えてくれた。