㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニは支度して爽やかに出てきた。今朝はあまり移動せずに、宿泊しているビジネスホテルの一階にテナントとして入っているという飲食店でモーニングを食べることにしていた。ホテルの客は少し割引があるのだ。何の変哲もないトーストとサラダ、茹で卵とコーヒーというプレートだが、十分だったし、ユニは喜んで食べていた。
ジェシンも一人暮らしを始めて外食も多く、簡単でも彩や栄養などが考えられた食事を本当にありがたいと思うようになった。特に野菜はまず買わない。料理しきれないから。サラダなど過熱しないものでも作るのが面倒で、カップに入った出来合いを買ってくるのが関の山だ。ユニはそんなことないだろうと聞いてみたら、一人分って面倒なんですよ、と返ってくる。
「多く作ると食べ切れなくってもったいないし、残して冷蔵しておいても、結局食べる気にならないと悪くなってしまうでしょ。焼くのも煮るのも一人分っておいしく出来る気がしないの。だからこんな小さなサラダを毎回作るなんて難しいからできないですし。」
人の作ってくれる料理はありがたい、とにこにことゆで卵をむいている。確かに茹で卵も一個だけ茹でてもなあ、とジェシンも思う。が、大体においてジェシンは卵もめったに買わない。俺は何を食ってんだ、と一人暮らしも四年ほどになっているのに今更思う。
何度かごちそうになったユニのマンションでの食事は美味しかった。二人分、は一人分とだいぶ違うんだろうか。いつかそのうち聴こう、そう思ってジェシンもコーヒーを飲んだ。
朝食後はすぐに出発した。今日は安東にある民俗博物館に行くのだ。李氏朝鮮時代の文化、民俗の様子を再現したり資料を展示したりしている。頼めば学芸員に説明も受けられるだろう。小説に描くのは両班という貴族階級のことだけではない。特に地方に住む人々のことも、主人公の生い立ちを考えれば知っていたい、そうユニは考えている。勿論書籍や研究者の書いた歴史書、テレビがやっていた歴史特番などの資料から、勉強はしている。だが、自分の目で見て、昨日一昨日と見回った当時の建物とリンクさせて想像すれば、それはまた現実味を帯びてユニの頭脳に染み込み、その創造力にさらに息吹を与えるだろう。ユニはそういうようなことを言ったし、ジェシンも同じように思った。
博物館は陶山書院などよりよほど近い。車で二十分程すれば市街地などすぐに抜け、なだらかな山が迫り川が見えたり消えたりする中、少し丘を登る感じでその敷地に入っていった。立派な建物に感心したユニは、駐車場から結構な勢いで向かい、張り切って中に入っていった。
ユニが早速見回り始めてすぐ、ジェシンは周辺地図を眺めていた。安東は、市街地は平地だが、川が周囲を巡る中、外側に向かって山がちになっている。朝鮮半島はどこでもそんな感じではあるが、この辺りは人の営みと自然の造形が本当に美しく組み合わされた場所ではないかとジェシンは感じていた。あちらこちらに『書院』と名のつくところがあり、この地がいかにこの学ぶ場所を大事にしてきたかを表していた。民俗博物館をさらに奥に進むと、『東山書院』があるのだな、とジェシンはなんとなく思い、陶山書院もそうだが、少し高台にあるものなのか、ととりとめもなく考えながら、一つ一つの展示物をじっくりと見ているユニを追った。
パンフレットでは足らず、ユニは最終的には博物館発行の写真集や解説集の冊子を売店で購入していた。時間も早いためか、刊行する場所ではないからなのか人は少なく、ユニはじっくりと時間をかけて展示物を見、売店のベンチで少し休憩してから、もう一度見てきていいかとジェシンに尋ねてきた。勿論、ユニが思うままに取材するための旅だ。ジェシンが頷くと、ユニは軽やかにフロアに向かっていった。
時間は10時半に近かった。朝食後すぐに来たのだ。だからすでに一時間ほどここにいる。同じぐらいの時間はかかっても全然いけるな、とぼんやり考えていると、あ、という声がした。
そこにはイ・ソンジュンが驚きの表情を浮かべて立っていた。