㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
部屋に招き入れて見直したユニの格好はなんてことはない普段着で、ジェシンもユニのマンションに行けば見るような服装だった。シャツタイプのチュニック丈をゆったりと着、レギンスを履いた脚がすんなりと伸びている。肩から暖かそうな大判のストールを掛けていて、いつもと違うのは洗い立ての髪だけだ。
ジェシンの動揺など気にもせず、ユニはにこにこと部屋を見回し、一緒だわ、と簡単な感想を言うと、ホーム画面のPCを見つけて壁に作りつけのデスクの傍に寄った。
「でも椅子が一つしかないわ・・・。」
本当に単身用のシングルの部屋なのだから当たり前だ。だが、流石に椅子に二人では座れない。
ジェシンはPCをもってベッドに乗り上げ胡坐をかいた。ユニは目を丸くしたが、他にスペースもないので自分もベッドに軽くスプリングを弾ませて乗ってきた。ジェシンはその間にデジカメとPCをコードで繋いで捜査していたが、ユニはそれを見ながら感心していて面白がっている。未だ原稿で編集者に渡し、それを編集者がデータとして打ち込んでいる作家もいる中、ユニは最初からデータで作品を編集者とやり取りできる現代の作家だった。資料もネットで探すことだってできる。だが、「文字を打ち込むこと以上のことはしたことないです」と今もジェシンがものすごく高度なことをしているような尊敬の視線を送ってくるが、正直大したことではないことをジェシンはよく知っている。勝手に尊敬してくれるのはありがたいが。
そんなしょうもないことを考えていないと、髪の香りに惑わされそうだったと言うのが正直なところで、外部デバイスとしてデジカメのデータを開き始めてからは、その写真の良しあし、いるいらないについて指さしながら作業が始まったので、暫く忘れていられた。
「全景だと迫力ありますね。」
「これはほら、珍しく門の屋根がかやぶきだった屋敷だ。」
「やだ先輩、私は撮らなくていいのに・・・。」
「撮ってたら勝手に入ってたんだ。置物だと思っとけよ。うお、これはなんだ、俺勝手に押しちまってたのか?」
「地面が映ってますね・・・先輩の靴・・・。」
「ああ、車に乗る前に払ったけど、結構砂ぼこりが付いてるな。」
「舗装されてないですもんね。文化財の区域だから仕方がないんでしょうけどね。」
夕食から戻ってくるとき、すでに外はかなり寒くなっていた。春先とはいえ、日が落ちれば気温は低い。だがホテルの部屋は暖かく空調が整い、食べた夕食とアルコールが程よく腹も温めていた。ベッドの上でノートPCの画面を二人で覗き込む。勢い体は密着し、別に離れる必要もなく、話す内容は二人が今日一緒に経験したこと。全部全部暖かく、明日のいく先、朝食の予定、そんな事を話している間にユニの頭が揺れだして。
「部屋に戻るか・・・眠いんだろ。」
「ん・・・せんぱいのほうが・・・うんてんもずっと・・・。」
「運転は好きだから別にいい。寝ちまうぞ、俺が連れてってやるから。」
「あのね・・・きょうでかけるのが・・・たのしみで・・・ねむれなかったの・・・。」
そう言うと、ユニはすうっと目を閉じ、ほとんどもたれかかっていたジェシンの肩からずるりと体が傾いていった。慌てて起こそうと肩を揺らしていた手を背に添えて支えると、元から近かったベッドの布団の上にジェシンの掌ごと背中が着地し、ユニはすうすうと寝息を立て始めてしまった。
「まじかよ・・・。」
ジェシンはPCを少し横に追いやると、体をひねってユニの上に覆いかぶさった。ぐっと体を近づける。穏やかな寝顔の傍まで。そして耳の上の髪にそっと唇で触れると、体を起こして頭をガシガシと掻いた。
「掛け布団の上に寝やがった・・・。」
そう呟くと、PCからデジカメを取り外し、スリーブさせてデスクに戻した。両方ともしっかりと充電に繋いでいる自分の冷静な行動が、ベッドの上の存在をどうしようかと揺れる胸の動きにつられないように必死な結果だとよくわかっているけれど、もうどうしようもないのも知っている。
布団をかけてやろうとずりずりと掛け布団を引っ張り、敷布団の上に転がった体にそっとかけながら、自分の寝場所もここしかない、と気づく。
ああ、と言いながら、シャワーは朝だと諦めてユニの隣に寝ころんでユニを抱き寄せた。
ユニは今は本当に眠っている。けれど、ジェシンがユニに背を向けてPCの始末をしていた時、意気地なし、と呟いていたのをジェシンは知らないのだ。