㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
疲れは取れ切っていなかったのだろう。
ユニにふるまわれた夕食で腹は温まった。差し入れで流し込むように食べた冷たい弁当とは大違いだった。買っていったビールのほかに、ユニは焼酎も用意していてくれた。それも飲んだ。ユニも一緒に飲んだ。ユニは案外いける口だ。ほんのりと頬を染めるのが目の毒だった。
気づいたときには結構な時間だった。来てすぐにしたボランティア活動の取材と体験の話など30分もかかっていないだろう。次の日に有休を貰ったことも気を緩めるのに影響したかもしれない。
久しぶりに酩酊を感じたジェシン。酩酊は眠気を呼んだ。そろそろ帰る、そう立ち上がったジェシンをユニは心配した。足元が心配だわ、そういうユニに、タクシーでも呼ぶさ、とジェシンは答えた。でも、とユニは窓の外を指した。
まだ春になり切らない冷たいみぞれ交じりの雨が降っている。タクシーも捕まらないわ、とユニはジェシンに泊まるように勧めたのだ。
「それは・・・ダメだろう・・・。」
「でも、オンニは、他の作家さんの締め切り前には家に泊まり込むこともあるって言ってたわ。」
「だがユニさんは一人暮らしだ・・・。」
自分の中にある理性を、酔いを追いのけながらかき集めてかき集めて、ジェシンは一度座らされた椅子から立とうとした。だが、ユニは首を横に振った。
「でも、こんな状態の人を一人で帰すことなんかできないわ。」
とりあえず座って、とユニはそれでも立ち上がったジェシンをソファに誘導し、座らせた。柔らかな座面が、背もたれが、体をさらに脱力させていく。何よりも帰ると言ったその口が信じられないほど眠い。体と心のくい違いを自分ではどうしようもない。
うとうととしていたらしい。耳にはカチャカチャと心地の良いキッチンからの音が聞こえる。水音が聞こえたり途切れたり。静かになったと思って逆にうっすらと目を開けると、ユニが近づいてくるのが見えた。ペットボトルの水と氷の入ったグラス。少し水を飲みましょう、と聞こえる穏やかな声。
「・・・悪い・・・みっともねえ・・・。」
「ほとんど寝ておられないんでしょ。疲れているのは当たり前です。」
「だが君だって・・・連日ボランティアしただろ・・・。」
「お手伝いだけですもの。車で移動するから歩き回ることも少なかったし・・・。チョソンさんと話が合って楽しかったし・・・。」
「俺はさ・・・むっさい男だらけで顔を突き合わせてた三日間だったぜ・・・。」
「チョソンさんすごい美人でしたね!先輩も一緒にボランティア行きたかったでしょ?」
いや、とジェシンは冷たい水を飲み、そしてユニを見た。
「ユニさんの方が数倍綺麗だ。編集部で机に縛り付けられるより、あの代表の女とボランティアするより、ユニさんと仕事をしていたい・・・。」
そこから先は覚えていない。うつろに、ちゃんと寝ましょう、と言うユニの声が自分の肩辺りから聞こえていた気がするが、気づいたのは夜中をだいぶ過ぎた朝方に近い頃か。まだ暗い夜空がカーテンの隙間から見えるのに気づいて、そしてもう一つ気づいた。
俺は、どこで寝ている?
ものすごく気持ちよく寝ていた。ぐっすりと。明瞭になる薄暗い部屋の中、目を凝らさなくても分かる腕の中の重み。
しっかりと両腕で抱きしめていたのはユニだった。どう見てもそこはベッドの上で、一つ床の中に二人で眠っていたのだ。ジェシンは固まった。そして天井を睨んだ。思い出せ、なんだこの状態は。
途切れ途切れに浮かぶのは、ベッドを使って、ちゃんと寝なきゃ、という声、いや、ソファを借りる、という自分の声。そして、そんならいっしょにねりゃあいい、きゃあ!
・・・俺がユニさんを引きずり込んだのか・・・
少し思い出して片手を額に当てたジェシン。その動きで目が覚めかけたのか、身じろぎをしたユニがジェシンの腕の中で顔を動かし、そして見上げてくるのが分かった。