極秘でおねがいします その26 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「・・・」

 

 無言で見下ろすと、一緒に行きます、とユニは小さな声で訴えた。

 

 連れ立っていくような用事でもない。そう言いかけたが、遠慮していっているのではなさそうだった。瞳が不安そうに揺れている。

 

 そうか、一人でここにいることが怖いのか。

 

 もう何年も一人で外出することなど、ほんの限られた場所しかない生活をしてきたのだ。行く必要があるところは、オンニと呼ぶ前編集者の付き添い付き。一人でうろつく場所など近所のスーパーかコンビニ、サイン本の作業のために使うことが恒例となっているホテルの会議室、それぐらいなのだろう。

 

 「・・・おう。ついてきてくれるか。」

 

 そう言うと、ほっとしたようにユニは頷き、ジェシンのシャツの裾を離した。駐車場は地下だ。三階の子供服売り場からエレベーターで地下まで降り、うっすらと埃っぽい匂いと時折きゅうっとタイヤがきしむ駐車場を歩くと、またユニはジェシンの服のすそを掴んできた。まるで迷子になるのを恐れるかのように。

 

 車に荷物を積み、大丈夫か、と聞いてみると、かすかに頷いた。無理するな、と言えば、先輩と一緒なら大丈夫です、とこれまた小さな声で答えてくる。

 

 「おう・・・じゃあ、服を掴んでちゃ、小さな子連れみたいだから、ほら。」

 

 ジェシンは手を差し出した。ユニはその手を眺め、ジェシンの顔を見上げ、そしてもう一回手を眺めてからおずおずと手をジェシンの差し出す掌に載せた。

 

 階段で一階まで上がり、そこからエスカレーターで一階ずつ上がりながらユニがぽつんと言った。

 

 「オンニにもよく手をつないでもらいました。最初の頃はつなぐというより、腕にしがみついていたかも・・・。」

 

 「外に出るのが怖かったのか?」

 

 「外に出るのが、というか、視線が・・・。」

 

 それ以上はユニは言わなかったし、ジェシンも聞かなかった。なんとなくは分かる。口に出せばもっと思い出す。ユニが悪意を向けられた、あの時を。だからジェシンが差し出せるのが今己の手なら、いくらでもかしてやりたい、それだけだった。

 

 「別にユニさんにしがみつかれるのは嫌な気分じゃねえ。ヨンハならお断りだが。」

 

 明るく嘯くと、うふ、と笑う声が聞こえた。

 

 「ク・ヨンハ先輩。ユンシクがお世話になっているようですね。時々メールでお名前が出てきます。」

 

 「お世話なんぞしてるもんか、シクに迷惑かけてるだろ。」

 

 「そんなことないわ。ヨンハ先輩のおかげで就職が早く決まった、って報告が来て、すごく安心したのを覚えてます。」

 

 「もうシクも就職して三年過ぎたんだな。子供みたいだったのにな。」

 

 ヨンハの名が出たとたん、ユニの表情がほころんだ。そう言えばあいつは後輩の前では馬鹿なことばっかりいってふざけてたな、と思い出して、たまにはいいことをするじゃねえか、と珍しくほめてやりたい気分になった。

 

 「ヨンハ先輩は先輩のこと大好きですもんね。」

 

 「あいつのあれはポーズだよ・・・本気にするんじゃねえ・・・。」

 

 さっきちょっと見直したヨンハは、すぐに懲罰対象に替わった。

 

 「とにかく、何でもいいから心細かったら俺のどこにでもしがみつけばいい。ユニさん一人ぐらいなら飛びつかれたってなんてことねえ。」

 

 そう言ってジェシンの一段下で手を握っているユニを見下ろすと、嬉しそうに笑っていた。

 

 かわいい。

 

 またそう思ってしまって、ジェシンは慌てて前を見た。もう一階分エスカレーターに乗ると5階の文房具、書店の階につく。本を見れば気も落ち着くだろう、と上の階まで会話は止まった。

 

 書店では、ユニは恐る恐る小説のコーナーを見て、真正面に展開されているユニイの本を集めた棚と台を確認すると、ぴょんと飛び上がって一列違う棚の方に行ってしまった。追いかけると、胸を押さえて目を見張っている。

 

 「あんな・・・あんな大きく扱われているなんて・・・。」

 

 「おいおい・・・始めて見たのか?」

 

 ユニは自分の本が実際に売れているのを、数字だけでなく、その目で初めて見たのだと、ジェシンは理解した。

 

 

 

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