路傍の花 その54 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「おい・・・あいつは何やってるぐずぐずしやがって・・・。」

 

 「話ってのは順序だててするものなんだよ時間も少しはいるって・・・。」

 

 「老論の得意な根回しってかうざってえ俺がこいつの無礼を成敗したお前の家の使用人の躾はなってねえな主が主だからか、って引き渡した方が早いだろうが・・・。」

 

 「だからそれをしたらユニお姉様が目立っちゃうって・・・。」

 

 ジェシンのいらだった舌打ちに、引き据えられているハ家の執事は狐面をしぼませている上に体もしぼませた。不用意な声を立てないようにさるぐつわを噛ませ、手首は縛られ、唯一足だけは歩くために縛められていない。ジェシンが乱暴に引っ張るものだから、何度も躓いて服は泥だらけだが。

 

 ユンシクは静かに隣にしゃがんでいた。ユニの顔を見たのはユンシクだけだ。慌てふためいて茶店に飛び込んできたときとは一変して、奥の部屋から厨まで戻ってきたユンシクは青白い顔をしたまま沈黙している。これから行うことを決める段階でも静かに頷いていただけで、何の意見も挟まなかった。ただその静けさがユンシクの相当な怒りを皆に感じさせていた。

 

 そのユンシクが、あ、と声を立てた。成均館の植木の陰に隠れて掌議部屋を見張っていたのだが、その扉がすうっと細く開いたのだ。長く伸びる淡い光が、真っ暗な西斎の庭に伸びている。

 

 それが合図だった。ハ家の執事を連れて行く。三人は立ち上がり、よろめく狐面の執事を引きずって、静かに掌議部屋に滑り込んだ。

 

 

 扉から入ってきたジェシンを見て、ハ・インスは顔をしかめた。ジェシンも同様だ。この二人は顔を合わせるだけでお互いを憎めるのだ。ただ今日はそれが本題ではない。ジェシンは顔をゆがめただけで何も言わず、ヨンハと二人掛かりで引きずってきた執事をインスの前に蹴り飛ばした。

 

 「・・・どういうことだ・・・。」

 

 「どうもこうも。今までお話してきたことの主人公が、掌議、あなたのお父上だったという事ですよ。」

 

 ソンジュンは執事のさるぐつわを取った。執事はにらみつけるインスの視線に耐えられず、申し訳ありませんお許しください若様お許しください旦那様のためを思ってしたことなのでございますぅ、とただただ呟いて額を床にすりつけた。

 

 「今回、この男がした事に関しては、当時この男を取り押さえた街の者三名、その他その場を目撃していたものも何名もいて、すべてキム・ユンシクの姉君の危難と確信しております。その危害を加えようとしたものがこの者だという証言も、いついかなる時にどこにでも出ると言っております。そしてこの男がただの通りすがりの者ではなく、以前確実にキム・ユンシクの姉君に関して不埒な関わりを持とうとした両班に関りのあるものであること。そうすれば、掌議、ハ大監様の名が出ることは必定。」

 

 「・・・お前は何をしたのだ・・・。」

 

 「若様っ!旦那様は実は大層あの娘を気に入っていまして、覚えておられませんですか二年ほど前荒れに荒れて連日妓楼にお通いになっていた時期を・・・。」

 

 「あ~ハ大監様は妓生になりたてのおぼこいのがお好きだという噂は今でもよく聞くねえ・・・。」

 

 ヨンハがのんびりと口を出したが、インスは執事を睨んだままだった。

 

 「こっそりと・・・そうなのです、誰にも知られずに若い娘をお囲いになりたいのです旦那様は。奥様には勿論、お嬢様にも知られたくないのですが、一番は若様とあと・・・左議政様に知られるのを恐れて、あの時も密かに都外れに小さな家をご用意されていたのです・・・。」

 

 

 執事はその夜インスに喋ることを言い含められ、もしかしたら自分は本当にハ家に勤め続けられるかもしれないと考え、洗いざらいをしゃべった。それほどハ家での務めは今までの屋敷勤めより給金が良いという事だった。その代わりユニを騙して連れて行こうとするような汚い仕事も率先してせねばならないが、それは言いつけられたことだから何ということもなかったのだという。

 

 その白状した中に、小さな家の話もあった。ユニを囲うために家まで用意したのに不首尾に終わった上恥もかかされたインスの父は、それでもまた機会があるかとその家は置いてあるのだそうだ。ただ最近は出世する方に忙しく、家のことはおそらく頭の中にない、そう踏んで、執事はしばらくその家でユニを自分が囲おうと画策したのだという。

 

 

 そうやってべらべらとしゃべる執事を、インスだけでなく、ソンジュンたちも嫌悪の目でにらみ続けていた。

 

 

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