路傍の花 その45 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 最初はそれほどでもなかった。午後から近所の学堂の少年たちが来るのにはもう慣れていたし、彼らはやはりまだ子供で、ユニをうっとりとみているだけが関の山だから。だが、ユンシクがソンジュンと二人組の鳴り物入りで成均館に入ってしばらくしてから、明らかに大人の儒生、そして親世代の両班の姿がちらほらとみられるようになったのだ。

 

 「お前が姉上姉上と言うからだろうが。」

 

 「だって嘘は言えないよ~。」

 

 そう揉めるジェシンとユンシクに、どうしたの、と傍でユニが首をかしげている。ヨンハはけらけらと笑ってユンシクを扇子で指した。

 

 「テムルがさあ、成績良くて褒められたりしたとき、どのように学んできたのか聞かれるんですよ。半分悪意があるけどね。学堂にすら行けなかったくせにどうして、って学問でテムルに勝てない奴らのひがみみたいなもので、貧しい生活を暴露させようって魂胆だろうね。」

 

 「純粋に勉強法を聞きたい人もいますよ、ヨリム先輩。」

 

 ソンジュンに合の手を打たれて、まあそんな奴もいるかなあ、と首をひねったヨンハは、そこは掘り下げずにつづけた。

 

 「だけどその悪意がまあから回って。テムルが無邪気に『姉上のおかげです!』なんて言うから、皆何が何だか分からなくなって、テムルの昔話を拝聴するんですよ、ユニお姉様!ユニお姉様がどんなにテムルを大切に看病し、その上床に臥せるテムルに素読を始め基本の学問を修められるよう手助けをしてくれたかってことを。それでユニお姉様が賢いからテムルも賢いのか、それとも逆なのか、なんてみんな混乱しちゃって。」

 

 「まあ、ユンシクったら恥ずかしいわ。身内のうわさ話をするものではありません。」

 

 「でも姉上。僕は学問の手ほどきもこの体の健康も皆姉上に頂いたものですから、それはうわさ話でも何でもありません、事実です。」

 

 「確かにお前の自慢の姉上様だって言いたいのは分かるけどよ。」

 

 ジェシンはあまり機嫌がよさそうではなかった。それはそうだろうとソンジュンは思う。ユニがさらに人の目に映り、評判が立っては困るのだ。ユニの隣に立とうとしているジェシンにとっては。けれどそれはソンジュンも同じだった。小科に合格し、小役人にならなれる立場を手に入れて、ソンジュンは大人の仲間入りをしたのだ。父親は断ってくれているが、それでもという縁談は止まない。時に屋敷で相手の娘に会わねばならない時もあるが、何とも思わない。ユニに会う時に感じる鼓動の速さも、こうやってジェシンの表情をうかがう時のなんとなくのイラつきも。ユニ様はやはり俺にとって特別なお方だ、そう思うしかなかった。

 

 「チョソンもチョソンだ。ここにわざわざ訪ねてきて、噂を助長するようなことをしやがって。おかげでシクがハ・インスに絡まれるだろうが。」

 

 ジェシンの愚痴は止まない。それに、ハ・インスの名を出すと、時折ユンシクが体をびくつかせることに皆気付いていた。ソンジュンの友人枠を独り占めしていて、名妓チョソンの関心を惹いているユンシクへのハ・インスの当たりは酷いものだった。それで怯えているのかと思っていたが、その実態を知らないはずのユニも、ピクリと肩を震わせた。それに三人は目ざとく気づいた。

 

 「ああ、ユニお姉様、テムルは俺たちがついていますから大丈夫ですよ。」

 

 「ハ・インス掌議は清斎が違いますので、言うほどの接触はありません。」

 

 「ええ。皆さまがおられるから、ユンシクのことは心配などしておりませんわ。」

 

 ヨンハやソンジュンの慰めに返したユニの言葉は気丈だったが、ジェシンはその様子をじっと見ていた。そして成均館の部屋に戻ったとたん、ユンシクを問い詰めたのだ。

 

 「あの・・・実は・・・。」

 

 皆口をあんぐりと開けてしまった。ユニが叔父夫婦に引き取られる原因となった、花妻騒ぎ。親類にだまし討ちのように借金させられたその貸主がハ・インスの父親で、返済できなければ娘を差し出せという乱暴極まりない話。

 

 「あいつは・・・知らねえんだろうなあ。」

 

 ジェシンが汚いものでも見たかのような苦い顔でつぶやいた。

 

 

 

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