㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「それでお前は何と言ったんだ?」
「何も。尋ねられたからと言って、やすやすと本人の許可なく喋るようなことはしません。基本ハ・インス先輩とユンシクは関係ないでしょう?」
「まあその通りだな。だが、インスが引っかかるのも分かるよ。あの、売り出し中にも関わらず、すでに牡丹閣の花になっているチョソンがどうも気にしているらしい男がいる、と鳴るとね。」
「だが、ハ・インスもお前と同じほどには早熟だな、妓楼に出入りしてなきゃ妓生と知り合いになることもないだろう。それも個人的に頼みごとをしてくるような。」
ソンジュンの語ったことに飛びついたのはジェシンとヨンハで、ユンシクはきょとんとした顔で叔母の作った黄粉をまぶした餅をおいしそうに食べていた。今日ユンシクは叔父の家に一泊してから実家に戻るのだ。それを聞いていたジェシンとヨンハも、前回はユンシクと話もできなかったからと押しかけてきた。ソンジュンはもちろん元からユンシクには会っていくつもりだったから、茶店で大集合となったのだ。派閥違いの少年たちが群れるのも目立つかと、叔父に勧められて茶店の厨の奥にある小部屋に通されて茶をふるまわれていた。
ユニは嬉しそうだった。姉と弟ではあるけれど、今日は一緒の部屋で休ませてもらうようお願いしているのよ、と盆を抱きしめて笑っていた。ユンシクもうんうんと喜んでいて、この姉弟の仲の良さがよくわかり、三人はちょっとだけうらやましかった。ちょっとだけだ、と各々思ってはいたが。ただ、嬉しそうであってもユニは茶店の手伝いの真っ最中だったから、四人で顔を突き合わせて話をすることができた。だから、ソンジュンはインスに聞かれたことをユンシクに話したのだ。ソンジュンも少々気になってはいたから。あの日のチョソンという妓生の表情の意味を。
「何を拾ってあげたんだい?」
「手巾です。落ちたのが見えて拾ったら、ものすごく豪華な蝶の刺繍がしてあって、大切なものだろうと思ったので。」
「へえ、蝶。牡丹じゃないんだ。」
「牡丹?」
聞きとがめたジェシンが聴くと、ヨンハは頷いた。
「牡丹。チョソンはね、まだ新人ともいわれるぐらいの若い妓生だけれど、歌が抜群に上手く他の芸事も抜きんでている。何より賢く品がある。牡丹閣を背負って立つ看板妓生になるだろうし、そうなると牡丹閣は花街で一番の格の高い妓楼だから、そこの看板妓生となれば国一番という事さ。そんな妓生に許されるのが牡丹の意匠だ。花の王を身にまとえるんだよ。チョソンは既にそれを許されている。だから持ち物にも使うと思ったんだけどさ・・・。」
「それをしねえから、いいんだろ。」
これ見よがしに牡丹の柄を着飾るような奴はそれこそ品がねえだろ、というジェシンに、皆頷いた。
「で、何を言ったんだい、そのチョソン殿に。」
ソンジュンは質問を元に戻した。
「え~、別に大したことは・・・落としましたよあなたのものでは、って声をかけただけ。」
「それだけかい?」
「うん。でもさ、確かにとてもきれいな方だったよ。びっくりした。都にはこんな華やかな娘さんがいるんだって。歌が上手いのも分かるよ、とてもきれいな声でお礼を言われたから。だけどわざわざ若様に拾っていただくようなことは、なんて言われたからさ。」
ユンシクは思い出しながらその時言った言葉を口にした。
「『蝶もかぐわしい花の元に戻りたいでしょうから』って言ったよ。」
ヨンハがひゅう、と軽く口笛を吹き、ジェシンが目を丸くした。ソンジュンは少し理解が遅れたが。
「お前・・・一人前に女を口説く言葉を知ってるんだな。」
「く・・・くどく?!」
「そりゃチョソンだって若い娘だよ、嬉しいよな、きれいだ、みたいな言葉はいつも貰っているだろうけど、そんなしゃれた言葉でほめられたらさ・・・。」
ジェシンとヨンハが口々に言って、ようやくソンジュンは理解したのだ。ユンシクは遠回しにチョソンの容姿を褒めたのだ。その言葉が、ユニそっくりのそれこそ美しい、野に咲く花のような若様に言われたのだから。
「すごいねえ、ユンシク君、君、国一の妓生を惚れさせたんだよ。そりゃ、ハ・インスも気にするってもんだ。」