㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユンシクの学業の進み具合を聞き、独学のわりにはしっかりと年齢並みのものに取り組んでいると知ったソンジュンは、これから読むべき本を少しばかり教えたところ、ユンシクはとても喜んだ。姉ユニの、父が弟子に教えていた記憶通りに学びを続けてきたものの、今姉は傍に居ない。いきなり指導者を失ったユンシクは、これからどうしようかと父の遺した本の山を整理しながら考えていたところだったのだという。ソンジュンの教えた本は父の蔵書の中にその題名を見つけているというユンシクに、君も記憶力がいいじゃないか、と笑った。
すっかり打ち解けたつもりのソンジュンだったが、次のユンシクが都に来る日は、ユニと会う日だったため、ユンシクとの少々の交流は一回休み。けれど約束をした。またユンシクが都に来る日にはできるだけ会いに来る。勉強の進み具合をお互いに報告し合おう。それに、ユンシクの心配の種であるユニのことを少しで教えてあげるから大丈夫だよ、と。ユンシクはとても喜び、僕に始めて友人が出来た気分だ、とはにかんだ。そんなの俺も一緒だ、とソンジュンも照れた。僕に友人まで与えてもらえて、姉上は本当にすごい、というものだから、ソンジュンも君の姉上様に感謝だ、と笑った。とにかくユンシクとソンジュンにとって、ユニは友情の恩人となったのだ。
その恩人のために、ソンジュンは働かねばならない、と決心した。働くとは、ソンジュンにとっては学問に勤しむことであり、学問するにあたって協力関係を結んだユンシクの力になることであり、そしてユニの毎日の安全を確認することだった。茶店にいる限りは、叔父叔母が共にいるし、ユニの父兄のようにふるまう客たちがユニを守っている。だが、壮健か、例えば客に嫌がらせされていないか、ということは見張れるし、実際何の遣いか知らないが、一人で外出したときに男に絡まれているのをソンジュンは見たのだ。助けたのは違う人だったが。それを思い出すと、ソンジュンは機嫌が悪くなってしまう。
あの事件の後、他派閥の少年、少しソンジュンより年上のはずのムン家の子息が、友人と共に店に現れたのは、何日も経ってからだった。ユニは嬉しそうだった。叔父叔母も入れ替わりに現れて頭を下げてユニを救ってくれたことを感謝していた。ムン家の子息本人は居心地悪そうだったが、もう一人の、ソンジュンの知らない少年が愛想よく叔父叔母だけでなくユニにも話しかけているのが気に入らなかった。ソンジュンの年頃の少年とは思えないぐらいの社交的な少年だったのだ。あんな風に年上の人とソンジュンは会話は盛り上がらないし、ユニに最初から平気な顔で話しかけられることが信じられない。ソンジュンだけでなく、この茶店にきて初めてユニと接した者は、とにかく赤面したりもじもじしたりして照れたものだ。それはいかに人付き合いの苦手さが人より酷いと自覚しているソンジュンからしても、あまり大差なかった。ムン家の子息はどちらかと言えばソンジュンに近い。だが、連れの、ムン家の子息がヨンハと呼んだ少年は、大層人なれしていた。
うらやましい、とか言わないけど。
ムン家の、ジェシンと呼ばれていた少年はまだいい。ユニを助けた張本人だから、感謝されるべきだし、あの礼を言われて困っている態度は好感が持てないこともない。だが、連れのヨンハという少年は、ジェシン少年のおこぼれに預かっただけじゃないか。それが本当に気に入らなかった。
それでも茶店は客が入っての商売で、茶店に来るな、なんてソンジュンに言う権利はない。あれから何日か置きにソンジュンは茶店にスンドリと共に寄るが、何回かに一度は、ジェシンとヨンハと会うようになった。彼らも常連になったのだ、と思うと、また悔しいやら、店のためには仕方がないやらと複雑な気持ちが生まれて、茶碗を持つ手が震えたものだ。
お互いに言葉を交わすことはない。挨拶もしない。知らんふりして行き会うだけ。そんな邂逅を何度かしている間、ソンジュンも数度ユンシクと会っていた。そしてその日も、ソンジュンは都にきているはずのユンシクに会うため、貸本屋に向かっていた。