路傍の花 その14 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 このヨンハという少年は、両班ではあるがそれは父の代からで、元は平民の身分の一つ、中人という商売を生業にするものが多い階級の出だった。今もク家は非常に大きな商団を経営しており、金は唸るほど持っているのだが、特権階級というのは中々に閉鎖的で、学堂にこのヨンハを入れるにも父親は苦労したようだった。それでもそんな扱いは見越していたようで、ようやく受け入れてもらえる学堂を見つけるまでに、ヨンハは家庭教師をつけられて英才教育を受けていたから、非常に賢い少年だった。最初の頃は遠巻きにされたり陰口を言われたりしたこともあったが、何も言わないこだわらないジェシンの傍に落ち着き、数人理解者もでき、その上ク商団の恩恵を受けたい家の親が仲良くするようにと言い聞かせたりしたこともあったらしく、今はのびのびと過ごしている。けれど最初に懐いた同じ年のジェシンとの友人関係は特別らしく、いつもその裕福さゆえの危険を回避するためにぴたりと送迎がつく学堂への行き帰りに、たまに供のものを遠ざけてジェシンと一緒に帰りたがった。ジェシンは屋敷に変えるだけだからたいして気にもしていなかったが、ヨンハにとってはとてもうれしいことだったようだ。

 

 ヨンハが女の子のことは、と威張るのには訳があった。ヨンハの父親は、息子の安全は第一だが、世の中のことは知るべきだとも思っているらしく、息子に女の経験を早いうちにさせたのだ。勿論色を売ることを生業とする、あとくされのない妓楼の女だった。女色の味をそこそこ気に入ったヨンハは、定期的に妓楼に上がり、少年そのものの可愛らしい顔のまま男としての経験を積んでいった。性悪の妓生にからかわれたこともあったし、ちょっとかわいいと思った町娘に、すぐに飾り物をねだられたこともあるし、そんなことを繰り返しているうちに、女あしらいがすっかり板についてしまっている。確かに娘という存在と関わったことのないジェシンよりはずっと見識はあるだろうが、かといって今回のことが参考になるのか、と、さすがにジェシンは首をひねりはした。捻りはしたが、どう考えても一人であの茶店に足を向ける勇気はないし、何よりも何をしゃべっていいかわからない。返すべきであろう桃色の手巾は洗いもしていないので返せないし、手放すのが惜しい気もちょっとだけ・・・そうちょっとだけしている。つまりジェシンに選択の余地はなかった。他に相談相手もいないし。

 

 「じゃあ、明日にでも行こう!」

 

 「あ・・・明日?!」

 

 「話が決まったら早い方がいいさ!何か手土産いるかな~でも茶店に菓子もヘンだろうな~それにお前へのお礼のご招待だしな~。」

 

 「大した事してねえのに、大げさに喜ばれちまっただけだっていうんだ・・・。まあ何も持って行かなくても、店のものを飲み食いすればいいだろ。」

 

 「でもせっかく知り合ったヌナのところに行くんだろ?何かほら、気に入ってもらえるようにしたいだろ~。」

 

 「ヌナってお前。」

 

 「あれ?ムン・ジェシン君!知らないの?!あの茶店の看板娘は、俺たちよりちょっと年上だって噂だぜ!花の盛りの元ご令嬢だってさ!」

 

 「両班の出だとは聞いたことがあるが、年上?・・・俺よりちっこいぜ。」

 

 「お前より大きい娘がいたらそれはなかなかすごいぞ・・・世の中の女人は大概俺やお前より丈は低いって・・・。」

 

 「・・・どうしてお前がそんな・・・年の事知ってんだよ。」

 

 ジェシンは苛ついてきた。あの茶店の娘に直接かかわりのあったのは自分なのに、どうしてヨンハの方が詳しいのか、納得がいかないが、こればっかりは世俗のことに興味のあるなしが影響しているとしか言いようがない。だからジェシンはぐっと不満を飲み込んだ。とにかく、この友人についてきてもらわねば、ジェシンはあの茶店に行けないのだ。

 

 「とにかく!明日!迎えの者に言っとくよ、寄り道するって!お前もお母上様に俺と少し遊んで帰るってお伝えしとけよ!」

 

 楽しそうに、人のことにまで指示するヨンハの肩をパンと叩くと、ジェシンは自分の屋敷に向かって角を曲がった。あははは、と笑うヨンハの元に、後ろからついてきていた供が駆け寄るのを横目で確認してから、ジェシンはしっかりと背を向けて屋敷へ戻っていった。

 

 

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