華の如く その125 ~大江戸成均館異聞~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟90万hit記念。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  作品舞台及び登場人物を江戸時代にスライドしています。

  ご注意ください。

 

 

 「信さんと俺は、ご存じの通り年が似通っているため、よく比べられて育ちました。国元の学問所でも、首座を争ったのは信さんがあいてです。勿論剣術も席次を競い意識したのは信さんでした。」

 

 金本先生の言葉を得て、俊之介は茶を飲みほしたにも関わらず少し時を過ごすことにした。遅い時間から一日が始まる女の家に行くのがどうしても億劫だという気持ちもある。在信と同じで、俊之介も女関係はあまり得意ではないのだ。いくら用があるのが、その家にいる男なのだとしても。

 

 由仁もとどまったまま聞いている。由久が置かれている場所に関わる人たちのことを知りたいのだろう。在信と陽高のことは良く知っているはずであるが、付き合いは短い。今、由久はほぼ見知らぬ人たちの中で全く知らぬ土地にいるのだ。

 

 「だが、首座を争うということは二人とも大層優秀なのだな。」

 

 感心したように言う金本先生に、

 

 「小さな国の、限られた年齢の範囲の首座です。江戸という大海に出てみれば、有象無象の一人。勿論信さんに背中を追われ続けていつ蹴落とされるかわからない俺など、大したことはありません。まあ・・・頭脳の面で言えば、信さんは確かに優秀であったわけです。だが、おっしゃられたように、軍師には向きません。」

 

 少し照れたように答えた俊之介は、それでも口調は冷静だった。

 

 「信さんの兄上様は寧信様とおっしゃり、俺より十以上離れておられます。陽高様とご学友であり、その当時の圧倒的首座であったとお聞きしています。信さんからは想像できぬほど線の細い方で、少し虚弱であられます。お子もできないということで、信さんがいずれ文屋の跡取りになるとほぼ決まっていると聞いています。この寧信様が、今回の跡目問題において、国元にて中心となり働いておられる人物です。」

 

 寧信様が軍師です、と俊之介は少しほほ笑んだ。

 

 「おそらく・・・これは俺の当て推量ですが、おそらく寧信様はこの跡目問題で陽高様を擁立することを自分の大仕事として締めくくるおつもりではないかと。十ほど離れているとはいえ、信さんとは兄弟です。早く引き継ぎたい思いがおありなのではないかと国元の我が父も言ってよこしました。寧信様は、信さんに良き主を持たせて差し上げたいのです。正直この10年あまり、我が国は働きにくい、いや・・・働き甲斐のない国でした。わが父が申しております。このような国の状態で若い者たちに引き継ぎたくはない、そう申します。寧信様はお若い。まだまだ中心となってお働き頂かねばならないご年齢です。陽高様もそうお望みでしょう。ですがどうも寧信様は、我が父などの年齢の藩士たちと同じ感慨の下、今回はお働きのように感じます。お持ちの頭脳と、国を良き方に導くためにはと思う信念とをすべて今回の有事につぎ込んでおられると見ています。寧信様だけなのです。殿のお傍近くに侍り、きちんと殿の想いをお聞きすることができる我が派の者は。最も最前線で状況を知り判断し、的確に信さんを動かし、陽高様に良き方に進むよう道を作られるでしょう。そして信さんは寧信様の想いを感じ取っておられます。寧信様の手足となって働くことを覚悟しておられるでしょう。軍師に向かないというのは、全くできない、というのではなく、今自分が軍師という立場ではないとよく理解しておられるという事なのです。信さんはそうやって、立場立場でやるべきことを成し遂げられる方ですよ。」

 

 ですから、陽高様も由も信さんに任せておけば大丈夫です、とほほ笑んだ俊之介は、頭を下げて座敷を辞去した。

 

 「・・・俺、どうして信さんを由仁さんに売り込むようなことを言ってしまったんだろう・・・。」

 

 そう呟いたのは道場の門を出てからだったが、何か、と問い返してきた供の藩士には、何もない、とでもいうように首を振り、

 

 「さて・・・野間殿のところに伺うか・・・家主殿が出かけていてくださればよいが・・・。」

 

 と困ったようにつぶやいて、年かさの勘定方を苦笑させた。

 

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