仁術 その29 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 小さな手だった。冷えていて、そしてふるえていた。握りしめているのが痛々しくて、ジェシンは覆った自分の手を動かして、指を一本一本引きはがすようにして開いてやった。華奢な指を追ってしまいそうで、出来るだけ優しくその指を握った。少しかさつく指先は水仕事を多くするからだろうか。女の手なんか触ったことねえからな、と思った瞬間、自分が何をしているのかに気付いて、ジェシンは我に返った。

 

 放さねばならないと思うのに、驚きすぎて動けなかった。ユニの指を開かせるために動かしていた手は、最後の親指をつまんだまま止まってしまった。もう片方の手は、ユニの掌を支えるようにユニの手とチマの間に差し込んでしまっている。つまりユニの膝の上に手を置いている状態になっていたのだ。

 

 みぞおちのあたりがひくつき始めた。だめだ、さすがに目の前でしゃっくりしゃっくりとするわけには、と思うのだが、体は勝手に反応する。とにかく放そう、と理性をかき集めて何事もなかったかのように手をそうっと外そうとしたのだが。

 

 「大きい・・・温かな手・・・。」

 

 ユニのつぶやきに手に力が入れれるわけもなく、へ、という間抜けな声が自分の口から勝手に出ていってしまった。しゃっくりより恥ずかしかったが、出てしまった音は仕方がない。

 

 「ユユユニ殿の手はやはり小さい・・・。」

 

 何ともそのままの言葉、さっきユニと話していた時は噛まなかったのに、いつも通り噛んでしまったユニの名前。もうジェシンにつける格好などなかった。

 

 「・・・握りしめすぎて、血の通いが悪くなってしまうと冷えます・・・掌も青白くなっているではないか・・・。」

 

 仕方がないので、ユニの親指を開ききってしまい、自分の掌の上にユニの掌を上向けにして置いた。握りしめたときに短くしているはずの爪がそれでもくいこんだのだろう、ところどころに筋がついてしまっている。そして白っぽい。どれだけ力を込めて握りこんだんだ、と感心するぐらい。けれどそれぐらいユニの胸に衝撃があったのだと、ジェシンはつい、その掌をさすってしまった。

 

 二人はずっと黙って、そう、それからずっと黙ったまま、ジェシンはユニの掌をさすり続け、ユニは手をずっとジェシンに預けていた。ユニの掌が同じ白でも柔らかな血の通った色に戻っても、ジェシンはゆっくりと手を動かし続けた。そしてすっかりユニの手が暖かくなったころ、ジェシンは穏やかに口を開いた。

 

 「ユニ殿。あなたがシクのことを大切にして、シクのためにと思ってしてきたことは本当の気持ちだろうと俺は思います。そしてあなたが学びたいと思っていることも本当の気持ちでしょう。どちらに裏も表もないのです。どちらも本当の気持ちだ・・・重なっている気持ちをはがして別々に見る必要はありません。あなたがシクに与えてきたものが、これからどうなるか。これからはシクが自ら育たねばならない、そんな時期に来ただけのこと。あなたは十分にシクに水をやり栄養を与え、育てた・・・。それだけの事なんですよ。あなたは立派に仕事をしてのけたのだ。」

 

 「まだやり遂げておりません・・・あの子の体が本復しなければ・・・。」

 

 「それも含めてです。シクは今までに与えられた様々な気遣いや手当てを、自ら気を付ける、律する、という形に変えていく必要があるだけだ。勿論まだしばらくはあなたの手助けが必要ですよ。でも大丈夫だ。あなたはちゃんと自らのことができる者にシクを育てている。あなたを手本に、シクは懸命に生きることを学んでいると、俺は思います。」

 

 「私を・・・?」

 

 「あなたをだ、ユニ殿。あなたがし遂げたことの素晴らしさは、いずれシクが証明しますよ、シクの生き方が。大丈夫だ。シクはあなたのおかげでこれから一人前の男になれる。」

 

 少し力を込めて、ジェシンはユニの手をはさんで包んだ。そして漸く放した。ユニがその掌を揃えて会釈をし、去って行ってしばらく、ジェシンは自分の掌を信じられないように見つめていた。

 

 それからジェシンはあああ!と叫んでその場にひっくり返った。手の平を空にかざしてしばらく眺めていたジェシン。

 

 手を触れあっている間、しゃっくりが出なかったのも、ユニの名を噛まずに呼んでいたことも、全く気付かないまま。

 

 

 

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