メロディ その44 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンの指が鍵盤を弾く。ピアノの独壇場なのだ、この曲の間奏は。軽やかに、たっぷり間をとって、でもぎりぎりのタイミングで音の頭を叩く。そのエッジがリズムを作り上げていく。

 ビッグバンドの演奏が入ってくるところもすべてピアノ。和音で刻んでいた軽やかなリズムからメロディを流れるように奏で、けれどやっぱり合間にエッジの効いたアドリブを入れていく。即興そのもの。だって今、ジェシンの前に楽譜はない。ユニが演奏前に囁いて決まったのだから、この曲は。でもジェシンは間違うとか、出来ないとか、という心配など全くしていなかった。何日も、ずっとジェシンはこの曲を弾いてきたのだ。頭の中のユニのために。ユニの歌に合わせて。そして歌詞にユニを当てはめて。

 

 顔を上げる。すぐ斜め前にユニが立っている。ピアノにもたれるようにして、ジェシンを見つめてほほ笑んでいる。

 

 ジェシンも笑い返した。ああ楽しい。どうだ、俺の音。浮かれてるだろ。マジ、馬鹿みたいに浮かれてるだろ。

 

 指が鍵盤を撫で上げる。全部の指を使ってユニを誘う。ほら君が歌う番だ。ユニに目配せをすると、それこそ演奏の際中なのに、ユニは声を出して笑った。楽しそうに、ふふふ、と。身を翻し、二歩。くるりと回ってフロアの方を向いたけれど、二歩歩いた先はジェシンの背後。背もたれのない丸椅子に座るジェシンの左肩に軽く手を置いた。

 

 ひゅう!と指笛が鳴る。熱いね!と野次が飛ぶ。

 

 (And if you’ve made it right you’ll know it)

 It’s not like anything you’ve made before

 (And if you’ve made it wrong you’ll know it)

 ’Cause it won’t keep you coming back for more

 

 ジェシンが弾き、ユニが次のフレーズを歌う。その掛け合いにフロアがまた湧く。ひゃー、キャー、という悲鳴も上がった。だって二人が目を合わせながら演奏するものだから。

 

 棚の上のおばあちゃんの本から学んだんじゃないし

 魔法と調理の妖精に教えてもらったわけでもない

 教えてくれたのは小さな小鳥

 自分で作ることが出来るよ、って

 それが

 

 ユニが最後のメロディを歌いだすと、フロア中が手拍子を始めた。ユニの指がジェシンの左肩をそれに合わせて叩く。こそばゆいぐらい軽く。でもそのリズムがジェシンの鼓動とリンクして、ユニの歌声とその鼓動がリンクして、フロアがその歌声とジェシンのピアノに絡まりリンクして。

 

 that’s the recipe for making love!

 

 ユニが高らかに伸ばす音を聞きながらジェシンの指が小刻みにトレモロを繰り返し、そして高音部に向かって撫で上げたと同時に。

 

 大きな拍手と歓声にバーは揺れた。

 

 

 

 「いや~いや~いや~!」

 

 其ればっかりを繰り返すヨンハは放っておいて、ジェシンはユニの隣に立つヨンハの後輩という青年に挨拶を受けていた。

 

 「その節は姉がお世話になりました。本当にありがとうございました。」

 

 深々と頭を下げるその青年は、ヨンハの後輩ではあるが、ユニの弟でもあったのだ。名前をキム・ユンシクという。それなら大学も一緒だったよな、と首をかしげると、学部が違うので、とユンシクは笑った。

 

 「ヨリム先輩にはゼミの先輩後輩ということで知り合いまして、とてもかわいがってもらってます。僕、大学には本当に講義に来ていただけみたいな学生生活だったんで、あんまり知り合いが多くないんです。」

 

 ムン先輩のことは知ってました、とほほ笑むユンシクは、ユニによく似ていてまるで双子の様だった。

 

 「こいつがあることないことしゃべったんだろ。」

 

 ヨンハに向かって顎をしゃくると、コロってあだ名をよく聞きました、とユンシクがしれりと白状する。ヨンハのヨリムという異名を口にするだけあって、ヨンハがかなりこの後輩と親しくしていたのがよくわかった。

 

 「俺は!コロのことはほめてただけ!な、テムル!」

 

 いきなり感嘆語から復活してきたヨンハが立ち上がってジェシンの肩を抱いてきたので、汗かいてんだ、と軽く振り払うと、クンクンと匂いを嗅いで、ホントだ、と笑ったヨンハ。気持ちわりいことすんな、と凄むと、にやりと悪い顔を向けてくる。

 

 「そりゃあんなに熱烈にピアノ弾いたんだもんな。いいよな・・・愛の言葉が言葉以外にあるってさ・・・。」

 

 余計なことを言うだろうと構えていた拳で、ジェシンはヨンハの脳天に一撃を入れてやった。

 

 

 

 

 
 
 

 

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