㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
二人きりで始まる生活。別に家族に反対されているわけじゃない。ただ二人はまだ若くて、社会に出て働き始めたばかりで、こじんまりとしたそのスタートラインが似合うと自分たちで決めただけ。
リビングと寝室代わりの小部屋が一つ。狭いキッチンスペースには他の水回りも全部そろっている本当に小さなアパートの一室。荷物だって少ない。元から沢山持っている二人じゃなかったし。これから必要な者は増えていくだろう。だから最初はがらんとしたこの空間がいい。
We’ve only just begun to live
出会ってからもう何年になるか。二人にはたくさんの道が目の前に開けていたけれど、隣り合って歩く人はもうずっと決まっていた。ただ一人に。まだ若すぎるのでは、と言う人もいるけれど、二人は決めたのだ。二人で覚えていくと。歩き方を走り方を。
生き方を。
小さな教会で、白いレースのベールと交わした約束。それが二人の人生の始まり。
水平線に昇る朝日を見るのも二人。
歩く道筋にある道しるべを二人で教え合いながら。
お互いのことを毎日教え合い、話し合い。
そして一緒に働く、それぞれの仕事を、支え合いながら、一日一日を。
一緒に。
一緒に。
そして夕暮れが来たら、顔を見合わせてほほ笑むのだ。数えきれないこれから起こる人生の出来事を経験しながら、二人は二人で育む人生を過ごす場所を作っていく。
ジェシンは駆け出しの弁護士。ユニは幼稚園教諭になったばかり。けれど、二人が共にいることへの意志は固く、その濃密だけれど節度ある交際を知っている二人の家族は、二人の決断を許した。不相応な披露はしない、という二人の意志も尊重してくれた。レンタルのウエディングドレスとタキシードで、家族と親しい友人数人だけに囲まれた小さな挙式をし、ままごとのような生活を始めた。
決めたことはいくつかある。
お互い責任をもって自分の仕事のプロになろう。だから何でも話し合って決めた。お互いの家庭での役割も、お互いの仕事のちょっとした悩みも。ジャンルが違うから逆に素直にお互いの話を聴けた。それで相手が元気を出して進んでくれたらいい、そう思えた。それぐらいお互いが大事だったし、どんどん大事になっていった。二人で暮らすことの喜びがここにあると、二人は実感している。
ゆっくりと家族になっていく。知り合いから恋人になり、そしてお互いが大人になるのを見て、そして一緒に歩くことを決めたのだ。いや、ずっと決めてはいた。ただ、自分が相手を守れるか、尊重できるか、そう思える時間が必要だっただけ。そしてお互いがそう思っていたから、成長も早かっただけ。
愛しているという言葉がどうも当てはまらない。その言葉一つだけでは収まらないから。この人がいなければ自分もいない。そう思うほどお互いがいるのが当たり前だ。美しい景色を見ても、おいしいものを食べても、ああ一緒に見たのならもっと、一緒に食べたのならもっと、と思う。見せてあげたい、食べさせてあげたいと思うのがたった一人なのだから、もう二人はどうしようもなく一緒にいるしかなかったのだ。
始まったばかりだったあの日から。今も続く蜜月。友人は甘ったるくて仕方がないと笑うが、大切に思う人を大切にして何が悪いのか、とジェシンはすげない。そのジェシンの大切なユニは、大きなおなかでにこにこと笑っている。あのスタートの日から何年たったか。二人は仕事を一人前にこなす社会人として立ち、家族を増やす決断をしたのだ。
二人が暮らすところは、二人で成長する場所。手を取り合い、終わりのない幸せを織り上げていくところ。また一つその織物に模様が増えようとしている。小さなアパートに物も増えた。今日は引っ越しの日。手伝いに来たのか邪魔しに来たのか、ジェシンの友人がまた一つ物を増やしてしまった。ベビーカー。気が早いと文句は言っても、礼もちゃんと言ったジェシン。この友人も自分たちの織る織物の模様の一部だ。二人でそうやってこれからも生きていく。
部屋は広くなる。家族が増えるから。けれどそこは二人が共に生きることを走ることを学んでいく部屋であることは変わりない。誓ったのだから、あの日。白いベールを纏ったユニと目を合わせて、交わした約束は永遠。
続いていく二人の物語。
~7カーペンターズ『WE'VE ONLY JUST BEGUN』より~