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それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 行き先も告げずに連れ出されるのはいつものこと。別に怖くない。彼と一緒ならどこでもいい。それぐらいユニは彼のことが好き。

 

 いつからか、なんてわからない。

 

 高校時代の先輩。ちょっと不良っぽくて、悪いうわさもない事はなかったけれど、なんてことなく大学生になっていた。ユニは別に彼と接点があったわけでもなかったけれど、一度助けてもらったことがあった。知り合いになったのはそれから。

 

 隠れてこっそりと悪いことをする人間なんてごまんといる。それが自分の通う高校にも当てはまるなんて、少女のユニには思いもよらなかったのだ。落としたよ、と声をかけられた放課後の廊下。振り向いたとたんに三人ばかりの男子生徒に引きずられて空き教室に連れ込まれた高校二年の秋。君可愛いと思ってたんだよね、俺と付き合ってよ、いえ、私はあなたのことは知らないから・・・、じゃ、遊び相手でいいから、いいえそんなことしたくない・・・、先輩命令が聞けねえのかよ、いきなり変わった相手の態度に怯えて動けなくなったユニの腕をつかんだまま、下卑た顔でユニのブレザーを脱がせようとした男がユニの背後を見て驚愕した。

 

 てめえら、何悪さしてやがる。

 

 そう呟くように、でも低音で良く響く声がユニの腕から男子生徒の腕を振り払い、ユニの前に立ちふさがった。俺たちはこいつの告白に付き合っただけで、告白って服を脱がすことなのかよへえ勉強になるなあ。胸倉を掴まれた一人、あとの二人は窓枠にしがみつくようにずり下がって行って。

 

 ユニが気が付いたとき、彼の友人が呼びに行っていたらしい教師が三人の男子生徒を連れて行き、ユニは彼の腕の中で安堵のあまり気を失ったのだ。

 

 それから彼はユニを気にしてくれていた。一つ上の学年だった彼は先に卒業したけれど、卒業の時に挨拶に行ったユニに告げた。お前はこれから受験だ。大学に受かったら考えてくれたらいい。俺はお前が好きだから、お前が俺で良ければ俺の恋人になってくれないか。嫌なら一年後、お前の卒業式で俺を振ってくれ。

 

 そんなずるいお願いを聞いてあげられるほどユニは大人じゃなかった。だからお願いしたのだ。

 

 一年待たなくていい。もう知り合ってから半年過ぎました。

 

 そして二人で汽車に乗って海の見える街まで行った。ユニは海を見たことがない。連れて行って、とお願いした。初めての二人きりの時間に、初めて見る景色がいい、と思ったのだ。全部全部ユニの大事な『初めて』に変わるから。

 

 乗った汽車は淡いグリーンだった。これからの季節を思わせる温かな色。春色のその汽車に乗って、彼は海へユニを連れて行ってくれた。

 

 ちょっと悪いうわさがあったのはわかる気がした。そっと身を寄せた彼から香ったのは煙草。ユニは父親が煙草をたしなむ人だったからすぐに分かった。けれど彼のにおいの混じる煙草の香りの方が好きだと思った。とっても好きだと、思った。

 

 手も握らない、でも二人きりのデート。まだ寒い色をした海を眺めて、でもユニの胸はどきどきと熱く脈打っていた。ユニの大事な思い出。

 

 体格がとても良くて、頭もいい。ちょっと強面に見えるけれど、実は優しくて、ユニに関してはとても心配性。違う大学に通うからいつもそばに居れるわけではないし、彼の方が先に社会に出る。そうしたらまた会える時間は少なくなる。それを言葉少なに、いや、どちらかと言えば何も言わないでユニに感じさせるのは、彼が何かを言いよどんでいるからなのだとは分かるけれど、こればっかりはユニから言うわけにはいかない。

 

 知り合って半年過ぎの初めてのデートでも手も握れなかった人。キスしたのは、恋人になってずいぶん経ってから。照れて人前ではまだ手も握らない。でもいつもユニのことにアンテナを張っている人。傍によると煙草と彼の香りが混じり、ユニを安心させる。でももっと私を安心させてほしいの。私はこうやってどこにでもあなたについていく気持ちがあるの。あなたは。

 

 ずっと私を連れて行ってくれますか?

 

 

 翼の生えた靴があるなら、其れを履いてどこにでもついていけるのに。そんな魔法をかけてほしい。あなたの言葉一つで、私には魔法がかかるのに。

 

 

 乗ったのはあの日と同じ春色の汽車。人の少ない車両に並んで座り、ついたのはあの海。ホームからも見える海。人気のないそこで、彼は言った。

 

 同じ人生を歩いてくれないか。

 

 

 魔法がかかる。ええ。私はどこにでもついていける。あなたの言葉一つで。赤い花が揺れている。蝶のような花弁が私と一緒に喜んでくれているように揺れている。門出を祝ってくれている。私とあなたの。そうでしょ。

 

 ジェシンさん。今日、心に春が来ました。

 

 

         ~『赤いスイートピー』に寄せて~

 

 

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