㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
あなたと会うたびに
ユニはいつだって戸惑いの中だ。周りが見えなくなって、そばに居る青年にすべてを奪われてしまう。視界も。音も。匂いも。全部全部。我に返ると感じるのは嫉妬交じりのからかいなのか嫌みなのか。友人のふりして彼の動向を聞き出そうとするクラスメイト。それをやんわりと阻んでくれる本当の友人。ユニは彼と親しくなることで、自分の交友関係のありがたさもろさをしみじみと感じているところだった。
どちらにしろ、人の目があることに変わりはなくて。それは彼が目立つ人であり、人気がある人であり、はたから見たらユニは極上の恋人を手に入れた幸運な少女なのだが、ちょっとだけ自分が自分で亡くなる瞬間があることが悔しかった。自分だけみたいで。自分だけが彼に夢中な気がして。
でも、彼の今回の誘いはこう。
誰も俺たちを知らないところに行こう。君だけを見ていたらいい時間が欲しい。場所が欲しい。
そう言ってくれたのは彼の方。彼がユニを独り占めしたい、そんな風に思ってくれていたなんて。
はしゃいだ私は
まるで少女のように感情をあらわにして。喜びを隠すことなんかできなくて。こんなにドキドキしているのよって伝えたくて。
南の風に乗って
私の恋は走るの。それを教えたくてユニは走りだしてしまった。彼が連れてきてくれたのはまだ夏の初めの海。砂浜に足を下ろしたユニはやおらスニーカーを脱ぎ、ソックスを靴の中に突っ込んで裸足になった。そして走り出す。この夏初めて着た白いワンピースのすそをひらめかせて。
素肌にきらきら
南の海じゃない。だけどまるでサンゴ礁があるかのようにユニには感じられた。世界の果て。南の常夏の島。二人きりの砂浜。海は青く澄み、ピンクや白やグリーンの産後が透けて見えるほどのきれいな海。海の水が太陽の光を反射して、その光が砂を白く輝かせて、まるでユニもサンゴになったかのようにピンクに白にグリーンに染まって。
二人きりで
このまま。このまま。流されてここで二人きりで。それでもいいと思う。誰の目も気にしないで彼に言える。今なら言える気がする。
ユニは彼に好意を告げられ、頷いてお付き合いをしているけれど、自分から好意を口にした事はない。できなかった。初恋だった。初めての恋人が初恋の人だなんて、ユニの胸はつぶれてしまいそうなぐらい揺れて揺れて。喜びと恐れと。彼は格好良くて、賢くて、将来有望な優秀な人で。高校中の人気者。みんなが友達になりたがり、女の子たちは憧れ、恋人になりたがっていた。ユニは入学以来成績順に決められるクラス編成でずっと彼と一緒だったけれど、挨拶ぐらいしかしたことがなかった。でも彼は時折、重いものを持ってくれたり扉を開けてくれたりとユニに優しかった。決定的だったのはある雨の日。ユニが、図書室から出たときに雨が降ってきていたことを知って立ち往生していた時に差しかけらた傘。俺も勉強してたんだよ、と近くでほほ笑まれ、バス停まで送るよ、とユニの方に多く傘を傾けたから、あわててユニはソンジュンの傍に立った。そうでないと彼の肩が濡れる。ありがとう、と小声て礼を言うと、当たり前のことだよ、とまたほほ笑まれた。何の勉強してたの、えっとね数学、積分が苦手なの、そうなんだ、俺数学好きなんだ一緒にやる?いいの?だって図書室で勉強してるんだろう、俺もしょっちゅういるからさ。そんな話をしたのが始まり。一緒に勉強するようになって、そして告白された。君のことがずっと好きなんだ。俺と付き合ってください。彼の真剣な告白に、NOなんて言えるわけない。私も、っていう返事は小さな声だったけど、心の中は大騒ぎだったの、とユニは今も思い出すたび一人真っ赤になる。
でも!ここでなら!今なら!言える気がする。いいえ!言える。言いたかったの、堂々と。でも恥ずかしくて、人の目が気になって。でも伝えたい、この思い。
『あなたが好き!』
振り返るとユニの靴を持って走り寄ってくるソンジュン。真っ赤な頬に、ユニの告白が聞こえたことが分かって、ユニは弾けるように笑った。
ユニの恋は 南の風に乗って 走り出した。
~『青いサンゴ礁』に寄せて~