君のために その9 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「ならば言い方を変える。お前の望みはあいつの姉だろう。シクは今、姉の婚儀どころじゃないのだから、あいつに構ったって姉にお前の望みは届かねえ。」

 

 それを聞いてもギドは動じなかった。

 

 「いえ。通じます。俺は心から彼の姉上であるユニ殿を妻にし、大切にしたいと思っている。あらわれたのはいきなりかもしれないし、何を言い出すのかと彼は思ったでしょう。過去のことを忘れたのか、と。」

 

 「そう思っているなら、身を引けばいいでしょう。」

 

 ソンジュンも口を出した。

 

 「俺は子供だった・・・立った13,4の子供に何ができますか、コロ先輩、どう思うイ・ソンジュン。その年頃の子供が親に逆らってできることなどあるだろうか。」

 

 ジェシンは言葉に詰まった。思い出す、何もできなかったあの日々。兄が死ぬ原因になった敵派閥にも、兄が死ぬのを見殺しにした自らの派閥にも、そして沈黙する父親にも、何も。今に見ていろ、今に見ていろ、と唇をかみしめて書物に沈んだあの頃。

 

 ソンジュンも黙った。両親からも親戚からも寄せられる将来塀の期待の重圧。その礎となる学問は、皮肉にもソンジュンの得意とするもので、好きなもので。その精度が上がれば上がるほど重圧は大きくのしかかった。それに乗じて持ち込まれる縁談、顔をつなげておこうという、同じような愛想しか載っていない貼りつけた笑みの同年代の少年たちの顔。すべてが嫌で嫌で。書物にかじりついて周囲から目も耳もふさいだあの頃。

 

 「父が決めたキム家との破談に俺は何の抵抗もできなかった。少しだけできた反抗は、それから先に持ち込まれた縁談を断り続けたことだけだった。子供だった俺から見ても、あの父の決定は理不尽で勝手なものだったし、キム家に・・・ユニ殿に大層申し訳ないことだった・・・。でも俺は何もできなかった・・・ただのガキだったから!」

 

 淡々とし続けていたキム・ギドが初めて感情をあらわにした瞬間だった。

 

 「あなたたちが知らないユニ殿の昔・・・少女のユニ殿の可憐さは忘れられなかった。田舎で生まれ育った俺の周りには、両班の令嬢とは言ってもそれほど際立った娘ごはそうおられなかった・・・容姿、気映えも含めて・・・だがユニ殿は、会った瞬間に光がさしたのかと思うほど可憐で・・・そして話をしても打てば響くとはこのことか、と思うほど知性に溢れておられた。その隣で座るユンシク殿は、幼く細く、姉であるユニ殿の言葉にうん、うん、と頷いておられたのを覚えています・・・ふたりともかわいらしく、俺は本当に気に入り、この縁を与えてくれた天に感謝したものです。早く小科を受け、ユニ殿と婚儀を挙げよう。そしてユンシク殿と共に学んで共に官吏となり、ユニ殿を喜ばせよう。そう誓って田舎の書院で励みました・・・その挙句の破談です。俺の初恋が敗れた瞬間、そしてその痛手はついこの間まで俺の胸から血を流していた・・・。」

 

 「あいつの名を・・・そんなに簡単に呼ぶな!」

 

 叫ぶジェシンに、ギドは敢然と向き合った。

 

 「ええ。分かっていますよ。ここでこの名は呼んじゃだめだ。けれど、彼女はそのままだった。可憐なまま、聡明なまま、彼女は大人になっていた。早く本当の名を呼びたい。呼んで言いたいのです。過去のことをないことにはできない。だが、俺は今、誰にもユニ殿を得ることに文句は言わせない。その手立てが、大科に受かり、都で王宮に勤めることです。都で独立したキム家となる。田舎の家は弟が継げばいい。官吏となった誉れが、それを俺に許してくれる。それぐらい大科に受かることは地方ではありがたがられること。その手段を持って・・・。」

 

 ギドの瞳は燃えていた。ぎらつくその瞳は、決して彼女には見せていないもの。ギドにとって手ごわい敵となる三人だけに向けられる、彼の決意。

 

 「俺はユニ殿をお迎えする。その気持ち一つで俺はここにいます。親を説得するなどとうの昔にやってきました。俺は明日にでも、彼女を抱きしめることができるんだ。」

 

 

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