君のために その3 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「婚約寸前だったぁ?!」

 

 声を上げたのはヨンハだった。中二坊に落ち着いた夜。相変わらず就寝まで押しかけて共に過ごす別部屋のヨンハを加えて、何なんだあいつは誰だと彼女に、今日名を知ったユンシク事ユニに問い詰めるのは当たり前の流れだった。

 

 健啖で、成均館の食堂の食事をおいしそうに平らげる彼女が、今日はもそもそと口を動かしていたのを皆知っていた。食事を完食したかどうかも成績に入るから全部食べたのだ、という無理やり感がまるわかりの食べ方だった。いつもなら、ジェシンがよこす甘い芋の煮物や、ヨンハが勝手に取り換える汁の椀も全部食べてしまう食いしん坊なのに。その小さな体で頑張らねばならないから、たくさん食べて栄養を取っていなければならないのに。

 

 その胸のうちの不安が、彼女から食欲を奪っていたと皆知っている。

 

 だからその不安の元を取り除くために事情を聴かねばならなかった。ユニは躊躇していた。勉強しなきゃ、明日の予習を、と頑張っていたが、取り囲む三人の大男の圧には勝てなかった。ヨンハは反論しただろうが。圧なんかかけてない、俺は菓子で釣ろうとしただけだ、と。

 

 そのヨンハの持ってきた揚げ菓子をお供え物のように前に置いたまま、ユニはうつむいて話し出した。もう数年、いや五本の指では足りないほど前の、彼女が、いやキム・ユンシクの姉が10才ばかりの時の話だ。

 

 

 まだキム家の当主が健在であったころ、娘のユニに縁談が持ち込まれた。キム家は本貫が安東というところに当たる。都に仕官した先代が都に一時居を構え、南人の仕官が王により禁じられた後、南山谷村に小さな屋敷を構えて学者暮らしが始まった。都からは一刻以上かかる道のりのこの村でも、地方の者からすれば都にほど近いところに住むとの認識があるぐらいの距離だ。安東だって都に来るのには二日がかり。キム・ギドの家は、その安東よりさらに南に下ったところなのだという。地方の小役人として代々そこに住み着いていて、安東のキム家の本家と、数回縁談のやり取りがあった間柄だ。時に学問において優秀な子息が生まれると、やはり都に出して出世をさせたくなる。ちょうど南人の官吏登用も再開されていた。そこでキム家の本家からつてを頼り、都にできるだけほど近い縁故の家の娘との婚姻を子息に望んだのだ。その子息がギドだった。

 

 ユニより二つ上、ユンシクより三つ上のギドを連れてやってきたのは彼の父親。親同士が話をしている間、ユニとユンシクの姉弟と共に、少しの間庭で話をした。ほんの少しの間だった。会話の内容も覚えていない。けれど彼が終始穏やかな少年だったのは記憶にある。彼ら親子が帰ってから、二人にはユニの縁談が調いそうだという話を聞いたが、まだ少年少女の彼らには現実味が湧かなかった。実際、あのギドという少年が小科に受かり、成均館に入るか、または大科を受けるために都で勉強をするときぐらいに婚儀を挙げればいいという流れだったのだ。いわゆる婚約だった。おかしいとは思わなかった。両班の令嬢の縁談は年齢の低い時に決まっているのが普通だったから。

 

 「だけど・・・その一年後に父が亡くなり、ゆ・・・僕が寝込み続けてしまうほど病弱だったため・・・頼りにならない婚家などいらないとばかりに・・・婚約はなかったことになったんだ・・・。」

 

 手紙で、この話はなかったことにしてくれ、とだけ送られてきたのは、キム家の金が尽きるころだった。必死にできる仕事を考え、医師の勧めで筆写の仕事を手に入れたが、貧しさは改善されず、ユンシクの体が弱いのも数年続いた。ようやく小科を受け、ここ成均館に来られた。それはユンシクの名のユニの物語だ。

 

 「・・・今更・・・ってことかよ。」

 

 拳を握り締めるジェシンに、ユニは慌てて取り繕う。そんなものなんだって、と。皆、親戚すら離れていったキム家。なのに。

 

 「僕が・・・小科に受かったって話を聞いて・・・恐れ多くも王様に目をかけられている、なんて噂もあるらしくって・・・そうしたら、僕が家に帰るとね、母上が困ってるの・・・手土産を持ってくるんだって、親戚が。僕たちを無視し続けた人たちが。お久しぶりです、なんて、何もなかったかのような顔をして。追い返すし、受け取らないようにしているけど、時々無理やり置いていくんだって・・・そんなものなんだよ、サヨン・・・。」

 

 

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