君のために その2 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 さらに小声になった二人の話声、いや、話をしているのはキム・ギドなる最近成均館に入ってきた儒生だけだが、小声になったために詳しくは聞き取れなかった。脅されたのならあいつをどうにかして、と三人はそれぞれ思った。ジェシンは拳で、ヨンハは金で、ソンジュンは権力を使って、と。彼女の、三人の大事な仲間、大切な小さな友人、可愛い想い人がふるえているのだ。そう思うのも無理はない。

 

 実行に移さなかったのは、脅しているようには見えなかったからだ。ギドは終始優しげだった。こちらに顔を向けているのはギドだったからその表情はよく見えた。柔和にほほ笑み、彼女の顔をじっと見つめ続けて言葉を紡いでいた。

 

 ギドが声をかけてきたのは、午後の講義が終わって、儒生たちが解放された気分でそれぞれの部屋や集まりの場所などに散っていく中のことだった。

 

 「ユンシク殿・・・キム・ユンシク!」

 

 まっすぐに近づいてきたと思ったら、ソンジュンと並んで立っていた彼女にだけギドは視線を向け、声をかけた。

 

 「やっと見つけた・・・会えた・・・。」

 

 そううれし気に顔をほころばせるギドに対して、彼女をかばうように立ったのはソンジュン。彼女の前に体を移動させてギドをにらんだ。

 

 「君は・・・先日入学した方ですね・・・何か用ですか?」

 

 「ああ、初めてご挨拶します、キム・ギド。南人ゆえ東斎にお世話になることになりました、イ・ソンジュン殿・・・ご高名はかねがね。」

 

 「いかにも、イ・ソンジュンです。同じ清斎ならばお見知りおきを・・・で、なぜキム・ユンシクに?」

 

 彼女が力弱くソンジュンの袖を引っ張っているのは分かっていた。けれどソンジュンは彼女を前に出す気は一つもなかったのだ。得体のしれない男の前になど。

 

 「ああ!彼は俺を忘れているのかもしれないですね・・・名もありきたりだ。数年前に一度だけ会ったっきりだから・・・。」

 

 少し残念そうに言ったギドは、それでもシャンと姿勢を正し、ソンジュンの背の後ろにいる彼女を覗き込むかのように顔を傾けて言ったのだ。

 

 「数年前、あなたの姉上と少々縁談があったのを覚えておられますか?その節は我が家の者が大変な失礼をしてしまい、ご縁が途切れてしまいましたが・・・俺はあなたに会いたかったですよ・・・ユンシク殿・・・。」

 

 ここで彼女がソンジュンの陰から飛び出し、あっちで、とギドの袖をつかんで連れて行ってしまったのだ。小走りに急いで急いで。様子がおかしいのを見て駆け付けたジェシンとヨンハと共に、いきさつを話しながらソンジュンも後を追ったのは当然のことだった。成均館の外にはいくまい、そして彼女が隠れ家のように使っている場所はいくつもないのを彼らはよく知っていた。距離を開け、一気にその場所、享官庁に向かうとやはり。二人は誰一人通らない建物の横で対面していたのだ。

 

 

 しきりに首を横に振る彼女をなだめるように、ギドが彼女の肩を優しくつかんだ。それすら許せなくて、またジェシンがもがいた。ソンジュンもそろそろ我慢が効かなかくなっていた。話がはっきりと聞き取れないのだ。もう一度、とか、俺は何も、とか、ギドの言葉が切れ切れにしか聞こえない。それでもともにジェシンを抑え込むヨンハが必死に首を振るものだから、どうにかジェシンの腕ごと腹回りに巻き付いていた。だが、ジェシンの意地の力はすごかった。

 

 二人の男の腕を振り切ったのだ。

 

 「シク!」

 

 大声で呼びながら柵の後ろから出て行ってしまったジェシンを、ヨンハは座り込みながらため息とともに見送った。ソンジュンは突き飛ばされた衝撃で着いた尻もちから素早く起き上がり、尻をぱんぱんと払うと、ジェシンを追って出ていく。ヨンハはよろよろと柵を頼りに立ち上がってそこで待った。

 

 「何黙ってうろうろしてんだ、てめえ・・・部屋に帰るぞ。」

 

 押さえてはいるが、怒声の一歩手前なのは、すぐ後ろのソンジュンにもわかった。だが、それをはっきりと向けられているギドは、しれりとした笑顔を向けてきていた。

 

 「あ・・・同室のムン・ジェシン殿ですね・・・。君を心配して来てくれたんだって、ユンシク君。じゃあ、俺は先に行くよ。それから・・・さっきの話、よく考えてほしいんだ。頼むよ。」

 

 

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