㊟フォロワー様500名記念リクエスト。
成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
下人がその知らせを持ってユニのところに来た時、ユニはもう一人の下人と下女と一緒に、先日訪れた妓楼の女将への土産物を選んでいた。
「奥様!旦那様のお仕事にめどがついたそうです!」
下人の手にはトック爺からの書状が握られていた。暗行御史は、家族への通信も禁じられた孤独な任務だが、トック爺は商売の件についての連絡だからと勝手に何回も書状が届いており、実際内容は新たな海産物の取引に関することばかりだったが、そこにヨンハの危機がにおわせていないことに、逆にヨンハの無事が感じられてユニは安心できていた。下人が見せた今回の書状にも、取引が成立したので戻るという簡潔な内容だけだったが、それはヨンハの期間を示すことと同義なのだ。
「何時かしら。ああ、いつでもお帰りになっていいようにしておかないと。誰か都の外れまで行ってお帰りを見届けてもらおうかしら、でも、王宮にご報告やらでしばらくおとどまりよね、でも都に入られたら、本当に一安心だからお待ちするだけでいいわね・・・。」
言い募るユニを、三人の使用人がほほえましく見守る。ご不安だったろうと皆察していた。婚儀を挙げてすぐに清に留学して、その一年間は離れることのない期間だった。帰還して官吏としてヨンハが王宮に詰めることが多くなり、おまけに家業もある。忙しいが、それでも屋敷に帰る日々に、新たな環境に慣れる過程の新妻は心強かったろう。それにヨンハはユニのことを大層気遣う夫だった。愛情を隠さず伝え、ユニの話を良く聞く。そうやってク家とその生業に慣れてきたところでヨンハの長い不在。明るく穏やかに同じ生活を続けているように見えたユニだったが、主人の不在を狙ったかのような出来事に対処せねばならなかったり、やはり普段より店の様子を見る義務感のようなものが大きかったりしたのだ。
「奥様、人は街道沿いに出します。書状は二日もかからず着いているでしょうから、旦那様方もすでにあちらは出立しておられるでしょう。行きよりも人数が多いでしょうから三泊から四泊ほど・・・早くても明日、でしょうが、先ほど一人出しました。お帰りを確認するまで交替で街道を見張らせます。」
まあ、と頬に手を当てたユニはかわいらしかった。具体的なヨンハの帰りの予定が定まったからか、途端に今度は慌てだした。
「そ、そうだわ、お義父様にもお知らせしてね、誰か遣いに出して。お帰りになったらお疲れでしょうから体にいいものを・・・ん、でもご無事をお祝いしたいわ、どうしましょう。あ、あ、それとこれをお客様にお持ちして頂戴。」
思い出したように手元のきれいな小扇を指す。いくつかある装飾品の中でそれを選んだのは趣味がいいと下人も思う。人によって好みは違うから、身を飾るものを贈るのは難しい。先日ユニを見物にきたのに、逆にユニに感心して帰っていった妓楼の主と女将の店で、この度結構大きな額の買い物をしてもらったのだ。踊りの宴用の衣装のための布だから、絹物で派手やかな高価なものが多く売れた。それを報告すると、ユニがすぐに妓生たちへの菓子の手配と、女将様には別に用意したいと言って下人に数点見繕わせたのだ。反物も、簪、櫛、螺鈿織の小物入れなどもあった。その中にあった手持ちに邪魔にならない小扇。黒っぽい繻子が紙の替わりにピン、と張られ、それでも複雑な地模様が派手やかで、骨は香りのいい手に滑らかな柘植、そして金糸銀糸をちらちらと織り交ぜた黒の絹糸の房がしゃらしゃらと音を立てる。美しい大人の女しか持てない逸品。ユニがどんなふうに女将を見ているかが分かり、女将も満足するだろう。小娘を見学に来た女将。その小娘から大人の女人として豪勢に扱われるのだ。溜飲も下がるに違いない。お上手です、奥様。
「お菓子は足りる?少ないと旦那様に恥をかかせますからね、多め多めに用意していくのですよ。扇は箱はあるのかしら…あるのね。綺麗にお包みして。お手紙は書きませんが、今後ともよろしくとお伝えしてくださいね。」
気もそぞろの奥方を見て、下人たちはにこにこと頷き、何もなかったかのようにそれぞれの仕事に戻ることにした。