空よりも海よりも その23 ~コロユニパラレル’パラレル’~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 「分かった・・・そのことは帰ってから本人たちに直接聞く・・・何度もショックを受けるよりいいだろ・・・。」

 

 一発で済む、と大きなため息をついたジェシンを、顔を上げたソンジュンは黙って見つめた。ああ~、と行儀悪く天井を仰いで足をおっぴろげて、20数年も前のちょっとガラが悪いと皆に思われていた頃のような態度を数秒。懐かしい、とソンジュンが現実逃避しかけたとき、腹筋を使ってぐい、と姿勢を戻してきた。ついでに顔も恐ろしいぐらい真剣だった。

 

 「後は家で聞くとして、肝心なことが一つ。てめえ、イ・ソンジュン。お前はどうするつもりなんだ。話聞いてると、ミニョンに流されてるだけのようにしか見えねえ。お前がミニョンをかわいがってることなんか、ミニョンが生まれたときから知ってらあ。だが、それだけの気持ちで夫婦になんかなれるもんか。ミニョンの気持ちに不釣り合いだ。歳よりも、そっちの不釣り合いの方が、ミニョンがかわいそうだ。」

 

 ソンジュンは少しほほ笑んだ。目の前の怒る一人の父親は、それこそ燃えるように一人の女性に恋をし、出会って数か月でその女性を引っさらってしまった情熱の塊のような男なのだ。弁護士として冷静に公平に物事を見る、そんな頭脳と精神を持ちながら、片方では周り中を巻き込んで恋を貫いた男でもある。結果その女性も幸せにしているのだから誰も文句は言えないが。だから、ジェシンが自分の娘ミニョンが燃えるように愛されないのが許せないのか、とも思った。そうなったらなったで怒るくせに、俺の娘に何手を出しやがるんだ、って。まるで保護者のようにミニョンを愛してきたソンジュンにだってその気持ちはあるから分かる。ただ、やはり実の父親であるジェシンの愛には及ばないが。

 

 「・・・先輩、俺はね、こと人に対する自分の感情が薄いと自覚はしてるんです。」

 

 人から羨まれる、いわゆる『良家』の一人息子という立場には、本人にとっては必要のない、はっきり言って邪魔な注目が集まるのだ。それが本当に煩わしかった。勝手な期待と、勝手な理想を押し付けられて。両親がソンジュンのやりたいことをさせてくれたから、ソンジュンは自分自身のままでいられた。ただ、人への関心はやはり育たなかった。けれど大学に入り、親友と呼べる友人ができ、信頼できる先輩ができ、人の輪が少し広がったときに出会った友人の姉に初めて恋をした。恋と気づいたときに、どうしていいかわからなかった。不器用に過ごしている間に、引っさらわれたのだ、彼女を。恋をしていた自覚はあった。だが、何もなせずに終わったその気持ちは、燃えかけたところで消えたようなものだった。ソンジュンはそのころ、やっと生まれたばかりの赤ん坊と同じだったのだ、情緒の面では。自分の中にある人を慕う心が、それが友情なのか尊敬なのか、それとも恋情なのか愛情なのか、それすら区別できない幼さを持っていた、体ばかり育った頭でっかちの子供。

 

 芽生えさせたのは友人、先輩、そして少し恋を感じさせてくれた彼女。けれど。

 

 「俺の・・・あらゆる情・・・人と交わり、その人を大事にする、そのことで得られる喜びや悲しみ、うれしいこと寂しいこと、そういうことを育ててくれたのは、ミニョンちゃんなんです。ミニョンちゃんが俺にすべてをくれた。」

 

 正直、とソンジュンは笑った。

 

 「女性に触れたことなど、挨拶時の握手ぐらいしかないんですよ、俺は。この年になって。笑うでしょう。必要もなかったし。欲求もなかった。だけどね、先輩、ミニョンちゃんは違う。勿論、だっこしていた時、膝にのせて本を読んでいた時、歩くときに手をつないでいた時、そんなときはただ、幼いミニョンちゃんと純粋に大人と子供のふれあいをしていただけですよ、それでも・・・多分。」

 

 俺は子供好きじゃない。でも。

 

 「ミニョンちゃんは特別だった。ミニョンちゃんだからそうした。小学生になり、中学生になり、でもミニョンちゃんが俺に触れるのがうれしかった。歩くときに、ミニョンちゃんが危なくないように手をつなぐのも腕を組むのも当たり前、俺は守らなくちゃならないから。俺の大事な・・・。」

 

 ソンジュンはジェシンを見返した。今まで、自分たちのいきさつを淡々と話していた、そんな素振りなど嘘のように。

 

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