視察のお供 リベンジマッチ前編 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 もうもうと湯気が立つ。当たり前だ。すでに冬に足を踏み入れている季節。目の前に座るキム・ユンシクの頬と鼻の先も真っ赤だ。

 

 「熱そうだのう・・・。」

 

 「はい!熱いですよ!」

 

 少々その湯気の勢いに怖じ気づく己とは裏腹に、弾むような声と表情で器をのぞき込む姿がなんとも若く可愛らしい。

 

 「器も熱いですからねっ!こうやって・・・ちょっと高く持ち上げて・・・。」

 

 箸で掴んだ乳白色の麺を冷えた空気にさらし、ふうふうと息を吹きかけてから小さな口に持っていく。ちゅるん、と小さな音がして、途中でちぎれて短めの麺は綺麗に口の中に収まった。

 おそるおそる同じ事をする。以外に滑るその麺をどうにか掴み、同じように息を吹きかけて口にすると、残る温かさと麺にしみこんだ汁の風味がじんわりと口中に広がった。

 

 「・・・美味いのう。」

 

 「ふふっ!寒いときには温かいものですよねっ!」

 

 寒さだけが理由ではなくなっただろう、さらに頬を赤くしたユンシクの顔を見て、王様は笑った。

 

 

 

 少々騒動に見舞われた初回の視察の後、王様はなかなかキム・ユンシクを供に連れ出すことができなかった。元々忙しい王様だから、おいそれと市中に出ていく暇はないのだ。しかし、この王様は身軽で、ちょっとした時間ができれば、数人の武官のみを連れて勝手に王宮から出て行ってしまう、内官泣かせのお方だ。

 キム・ユンシクを捕まえて供にしたのは、前回は偶然だった。市中に貸本屋の仕事の用事で出たユンシクと、チョン博士から頼まれた用事を果たすついでにユンシクの供をしていた成均館の書吏のジュンボクを見かけ、捕獲して無理矢理供をさせた。見回り用の両班姿の王様を見たユンシクの驚き様は大変面白く、王様は愉快な思いをしたものだ。

 それに、彼を連れて歩くのは楽しかった。最初は怯えておどおどしていたのに、王様が足を止めるたびに熱心に一緒にみたり考えたりするその姿は非常に好感の持てるものだった。話し相手としても手応えのある相手でも有り、王様は益々愉快になった。その上、もっと楽しいことを二人でしたのだ。

 

 市中に出ても、王様は飲み食いは殆どしない。時間の制限もあるからだが、普段から水刺間が作った膳で毒味されたものしか口に入れない育ちだし、簡単にものを食べてはいけないという強迫観念もあった。毒殺の可能性を昔から感じていたからだ。けれど、この小さな供は簡単にその縛りを解き放った。

 

 屋台売りの菓子をなんの疑問もなく王様と分け合い、飯屋ででた饅頭を、熱いうちが美味しいと半分に割って勧める。見本のように食べてみせる。本当に美味そうに。そして実際美味かった。味もそうだが、できたての旨さを王様は初めて知った。そして、其れを笑い合える相手がいることで、さらにうまみが増すことも。

 

 つまり王様は、ユンシクを供にする事に味をしめたのだ。だから、機会を窺っているのになかなか彼は捕まらない。貸本屋へ行く頻度や、成均館にいて多少時間がありそうなときを見計らっているのにも関わらずだ。前回のように、ジュンボクという供はいるにしても、一人でいることが少ないと、偵察させた武官が笑いをかみ殺しながら報告してきて、王様は苛立った。

 

 「子供ではあるまいし・・・いや、見かけは子供のようだが・・・一人前の成均館儒生が一人になることがないなどおかしいではないかっ!」

 

 実際は子供ではなく女人だが。それは、今の姿が成均館の儒生の姿なので無視しておくとしてもだ、と王様は武官を睨み付けた。

 

 成均館の中でも、いつもお仲間の誰かとご一緒でした。本日は市中にでられましたけれど、イ・ソンジュン殿がピッタリとくっついていて・・・荷まで持って差し上げてました。仲がよろしいんですねえ。先日、チョン博士に使いに参りましたときは、ムン・ジェシン殿に襟首を掴まれて引きずっていかれてましたよ。なんだか怒られていました。なんの悪戯をしたんでしょうね。いや、楽しそうでよろしゅうございますよ

 

 

 

 ようやく捕まえて供をさせたキム・ユンシク。近況でも聞いてやろう、と王様はここ最近の彼の話を引き出すために、ククスの後に酒も少々飲みたいと言って、ユンシクに酒とつまみを注文させた。

 

 

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 ※皆様、明けましておめでとうございます。

   久々の『視察のお供』。新年特別版としてお送りします。『ROSE』はこのお話が終わりましたら、再開いたしますね。

   今年度もよろしくお願い申し上げます。