放榜礼の日に~ジェシン編~ | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。


 よく晴れた朝。
 ユニは成均館を後にした。

 前の晩、殿試の後、
 胸に迫ってきた寂寥感に、ユニは泣いた。
 こらえきれずに、試験帰りの仲間たちの列から
 走り出し、たどり着いたのは大銀杏の木の下。

 合格したのはうれしい。
 これでユンシクに名を返すめどもついた。
 大仕事をやり終えて、安心したはずなのに。
 ようやく女人に戻れるのに。

 学ぶことを満喫した成均館での日々。
 恐怖だった儒生たちの中で暮らすことも、
 支えてくれる仲間を得たことで
 喜びも多い日々に変わった。
 充実した人生。
 ただ、生き残るためだけに働いていた、
 そんな昔の自分を忘れさせてくれたところ。

 大銀杏の下でうずくまってなくユニを
 追いかけてきて抱きしめてくれたジェシン。
 サヨンと出会えたのもここ、成均館。
 出会いは入学前。
 でも、ここでわかり合い、そして恋をした。
 男と女でありながら同じ部屋で暮らし、
 男と女ではなく、先輩後輩として過ごした。
 この場所から、私は出ていく。

 サヨンとして抱きしめてくれたジェシン。
 ユニは声を上げて、泣いた。

 中二房へ、ユニはジェシンに負ぶわれて帰った。
 泣きすぎて息が上がり、一日試験を
 座り込んで受けていた上に、
 大銀杏の木まで全力疾走。
 足の力は抜けていた。

 真っ赤な目をしたユニを見ても、
 中二房で待っていたソンジュンは
 何も言わなかった。
 普段通りに迎え入れ、
 荷物を片付けておこう、と
 穏やかに勧めてくれただけ。
 すでに大半を片付けていたソンジュンと
 乱暴に布にものをどさどさとくるみこんだジェシンと
 違い、一つ一つを丁寧にたたみ、
 確かめるように積んでいくユニは、
 気がつくと、少ない荷物を部屋中に広げていたので、
 慌てて布に包み込み始めた。
 
 ソンジュンは、慌てなくていいよ、と
 部屋の隅で本を持って笑い、
 ジェシンは、ちょっと出てくる、と
 どこかへ行ってしまった。
 ユニも、少ない衣服と手持ちの本を
 工夫して包んでしまうと、
 中二房の中はなんだかがらんとしてしまった。

 また涙が出そうになったとき、
 戻ってきたジェシン。
 その手には酒の瓶。懐から茶碗が三つ。

 「サヨンてば・・・。」

 ユニがようやく笑った。
 ソンジュンも、先輩酒ですか、と笑う。

 「中二房最後の夜だ。
  お前も飲め。お前もだ。」

 ドボドボと茶碗につぎ、
 ソンジュンに押しつけ、ユニに茶碗を持たせる。
 自分の茶碗にもついだジェシン。
 その酒を目の上まであげた。

 「三人で過ごす夜もこれが最後だ。」

 茶碗を両手で包んだユニの目の前で、
 意外にもソンジュンが先に酒を飲み干した。
 そして、同じく飲み干したジェシンの茶碗に
 酒をつぎ返している。

 何の言葉もない。
 つがれた茶碗をまた目の前まであげたジェシン。
 穏やかな顔でジェシンを見つめるソンジュン。

 その酒をジェシンが飲み干したのを見て、
 ユニも自分の茶碗に口をつけた。

 次の朝、ユニはジェシンに連れられて
 博士たちに挨拶をした。

 講義前の慌ただしい時間だったが、
 博士たちはユニの合格を喜んでくれた。
 特に、ユ博士はユニの粘り強さと才能を
 買っていたので、自分の師匠から貰ったという
 本をユニに譲ってくれた。

 「自分を高めることを忘れないように。」

 そう言葉も貰い、ユニは薬房へと回った。

 チョン博士は、ユニに薬剤を贈ってくれた。
 弟ユンシクの体調を万全にするために。
 ユニがこれ以上苦労しなくていいように。
 
 深々と頭を下げたユニ。

 すでにソンジュンは、下人のスンドリが迎えに来て
 先に帰っていった。
 ヨンハは荷物が多いと騒いでいたが、
 馬を二頭連れてきたトック爺と男の下人、
 書吏のジュンボクに手伝わせて、
 これもすでに帰ってしまっていた。

 講義のため、無人の静かな東斎を眺め回すと、
 ユニは、ジェシンに促されて
 静かに成均館を後にしたのだった。


[https://novel.blogmura.com/novel_koreandramasecondary/ranking.html にほんブログ村 韓ドラ二次小説]