㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
あ、出てこられた。車をこっちに回せ・・・ちょっと待て。こちらに掌を向けているけれど・・・歩き出した。このまま徒歩で移動らしい。俺はそのまま警固につくから、連絡を待っててくれ。
はあ、予定が未定だとガードしにくい。今日はユニお嬢様の警固も休日だから一人だったし。こっちも俺と運転手さんだったから。クさんの仕事がキャンセルになったから本当に急な時間の空きだったんだけど、もう躍り上がるようにして駐車場に現れたときは・・・先に秘書さんから連絡は来ていたけれど・・・ああお嬢様の所に行くんだな、とは言われる前から分ったが。この人の警固につく事が多くなって、この人が喜び勇んで向かう先ってのが一つしかないってのがすぐに把握できたしな。だが、車に乗ってからがうざ・・・少し大変だった。「・・・どうして電話出ないんだろ?今日日曜だよな?ユニが休みの日だよな?」「トイレかな?1分待ったら出るかな?」「もしかして、掃除機をかけてるから着信に気づかないかも知れない!」「やっぱりトイレか?お腹壊したのかな?」・・・待つなんて口だけで、立て続けに何度も電話をかけては出ない理由を一人でわめいていた。トイレトイレって若いお嬢様に対してお気の毒でしょうがいくら本人がここにいなくても、と思ったけど、相手すると更に五月蠅くなるのはすでに学習済みなので黙って待っていた。何度もかけた挙句に、とうとうお嬢様の弟さんにまで電話をかけたのには驚いたけど。お嬢様だって急な用事ぐらいあるだろうよ、と思いながら聞いてると、弟さんにはすぐに電話が繋がって、お嬢様は美容院にお出かけだって・・・。そりゃ女性だから美容院にも買い物にも行くだろうよ、休みだもんな。で、そのまま美容院に直行だ。美容院なんて時間がかかるものなんじゃないのか?なんてこの人には言わなかったけど。この人は待つとなったら美容院に陣取ってお嬢様が髪を手入れして貰ってるのを嬉々として見るだろうからな。俺はこの人につくばっかりでお嬢様の警固にはついたことがないんだが、時にこうやってお嬢様に会いにいったりする時にお会いしたことは何度もあるから、この人がいかにお嬢様を溺愛しているかは知ってる。俺がこの人につくようになったのは数ヶ月前からだから、その前に噂で聞いていた夜遊びに飛び回るこの人の生活は全く知らないんだ。
どちらかというと、このク・ヨンハという財閥の御曹司で、すでにグループ会社の中でトップクラスの地位にいる大変恵まれているように見えるこの人の生活は地味そのものだ。あ、着ているものとか住んでいるところとかの話じゃない。生活サイクル、と言ったらいいのだろうか。朝、出社するために迎えに来て、車で社まで送り届けたら外出しない限り待機、つまりずっとデスクワークを建物の中でしているということだ。出ても仕事で人と会ったりするだけだ。夜遅くまで働いてそのまま帰宅。正直、ものすごく働いている。びっくりするぐらい何の娯楽もない。唯一の歓びがキム・ユニというお嬢様に会えるときだ。良くて週一。それはお嬢様がクさんのマンションに泊まりがけで来てくれるときぐらい。それぐらいこの人は休日がない。地位のある人ってのは働く時間は制限されないのだろう。そんな彼の生活を見ているから、遊び人という異名のあった時代を俺は想像できない。まあ、遊び回ってたときはもっと気楽な身分だったんだろうから、学生とか、就職したてで一応ペーペーだったとか、そんな時だろうけど。
まあ他人事ではあるんだけど、凄くお金もあっていい生活をしてるのも分ってるけど、案外うらやましくはないんだよな。凄く大変だと思う。だから、お嬢様に会うのにものすごく嬉しそうなのは、心情的には案外許せてるんだ。だけどなあ、この人、微妙にうざ・・・うっとうし・・・同情できないんだよ。なんというか、まあ、お嬢様もよくこんな五月蠅い男につき合ってるなと思うわけだ、俺は。