隣に座っていいですか? その12 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。  

  ご注意ください。

 

 

 ソンジュンがストーカーまがいにユニを観察していた期間で分ったとおりに、ユニは週明けの二日はほぼ図書館には来ない。働いている母親の残業が必ずと言っていいほどある日なのだそうだ。この二日間は、高校から真っ直ぐに帰って家事をするらしい。大した事はしていないのよ、とユニは言うが、学校との往復しかしないソンジュンにとっては、ユニこそ二足のわらじを履く立派な人間にしか思えない。

 

 それに、時折聞くのが弟の話。最初にユニに話しかける事ができたきっかけを作ったのが、弟の発熱の看病をしていて疲れと寝不足の溜まったユニの介抱だったから、彼の話を振ることは容易だった。それに、ユニとソンジュンの間に共通の知り合いはいないから、あったこともないユニの弟が唯一のとっかかりのようなものだった。

 

 「小さいときから、特定の病気ではナインだけれど、良く熱を出す体質の子で・・・出したら高いの。それに、長引くし。中学生になってからましになったんだけど、季節の変わり目とかはまだダメで。あ、あれからは元気に学校に通っているわ。」

 

 一つ年下の弟の話を、本当に愛しそうにするユニは、正直ソンジュンにとってぐっとくるものがあった。その表情をさせる人間に自分がなりたい、そう思ってしまうぐらい、ユニの表情が静謐に綺麗だったから。

 

 テーブルに座るユニを見つけると、ソンジュンはすぐにそこに行く。そして彼女の正面に座る。ユニはいつも顔を上げてにっこりと笑って頭を軽く下げるのだ。図書館の閲覧室。全くの無言でないとダメだというわけではないが、やはり静かに使うというのがルールだ。挨拶もそんな風にゼスチャーになるのが習慣になってしまったが、それでも拘りなく同席を許してくれることに、ソンジュンは満足しなければならないのかもしれない。

 

 けれど、ソンジュンは本当は、ユニの正面ではなく、隣に座りたいのだ。

 

 初めて彼女を見つけた日、その時に見た美しい絵画のような彼女の姿は横顔だった。ソンジュンの視界にピッタリとはまったあの景色。それを間近で、誰も見ることのできないぐらいの近さで独占したい。正面から見るユニも可愛らしいし、立ったときに見上げてくる上目遣いのユニも大層可愛らしい。どれを見ても満足ではあるのだが、やはり回帰するのはあの横顔なのだ。

 

 横に座りたいと言えば座らせてくれるかも知れない。けれど、そのためにはユニに座る場所を変えて貰わなければならない。

 

 ソンジュンが見たのは彼女の右側の横顔だ。そして、ユニが座っているのはテーブルの右端の席。ソンジュンがユニを初めて見た日から、一度もその場所が変わったことはない。

 

 なぜか人は、大体同じ場所、席に固執する。慣れや落ち着くといった理由はあるのだろうし、実際ユニが同じ場所にいることを利用してソンジュンは彼女を観察したのだ。その時は便利に思ったが、今は少々焦れてしまっている。しかし、席を一つずらして座ってくれないか、なんて、ソンジュンに言えるわけもなくて。

 

 隣に座って、君の横顔を存分に眺めたいんだ。

 

 なんて急に言われても、自分が少々頭がおかしいと思われるぐらいソンジュンだって分っている。だから言わない。せっかく前に座れるようになったのに。ノートを参考書を間に挟んではいるけれど、通路は跳び越えた。しばらくはそれで満足しなければならない。そう言い聞かせてソンジュンは今日もユニの正面に座る。

 

 一時間ばかり集中して勉強すると、二人は少し休憩する。ユニとソンジュンが初めて話をしたあのソファに座って。ユニは二回ソンジュンに飲み物を奢ってくれた。それは、あの日にソンジュンが彼女に飲ませたスポドリと持ち帰らせた水の分だろう。それ以降は、お互いに自分で買ったり、ユニは水筒にお茶を入れて持ってきていたりする。お互いに借りのない友人としての関係だ。清らかで、正しい友人関係だ。ソンジュンが胸の奥底に下心を隠し持っているだけで。

 

 その休憩時間に話をする中で、少しずつ知っていったユニの事。会話に出てくるのは、母親と弟の事ばかり。

 

 父親がいるのかいないのか、どうしても気にはなるが、ソンジュンはそれを未だに聞けないでいた。

 

 

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