㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
小学校に入ったばかりの時、担任の先生は、字が丁寧に書けたとき、計算ドリルが全部正解だったとき、作文が上手に書けたとき、可愛らしい動物のシールを貼ってくれていた。もっと良くできていたら花丸。時には、『良くできました』のコメント付き。
そんなご褒美を貰いたいぐらい頑張ったよな、俺。
花丸の上に可愛い動物のシール、イメージは彼女によく似た白いウサギ、『頑張ったね』の褒め言葉、全てを自分自身につけてやったソンジュンの本日の成果は。
「家よりも集中できるので、なるべくここで勉強をしているんだけれど、母が残業で遅くなる曜日は早めにかえって夕食の準備をしているの。
だから、毎日は来れないわ・・・。」
ソンジュンの誘いにそう応えたユニ。ソンジュンはそれでいい、と頷き返した。
「そりゃ、人それぞれに事情も用事もあるよ。俺だって早く帰るように言われる日もあるし・・・。」
「・・・それじゃあ、一緒に勉強できる日は、よろしくお願いします?」
「・・・こちらこそ?」
少しおどけて疑問詞付きで諾の返事をくれたユニに、ソンジュンもつられたように疑問詞を付けて返すことができて、普段はユーモアのかけらもない自覚もあるソンジュンとっては最上の問答ができたと思っている。
思ってはいるのだが。
課題は次から次へとわき出してくる。
まず、連絡先を聞き出せなかった。
目の前にユニがいなければすらすらと言葉は浮かぶのだ。
俺がここに来れない日を連絡したいから、君の都合の悪い日を教えて欲しいし、学校行事も違うから時間も変わるときもあるしね。
けれど、その時は全く連絡先を交換することなど思いつかなかった。
そして、彼女を送ってやることができなかったこと。
具合が悪くなったすぐ後なのだから、家まで送ろう、とか途中まででもと申し出れば良かったのだ。スンドリは連絡しなくても6時頃になれば駐車場に車でやってきて待機している。言えばいいのだ。うちの車で送るから乗って帰って、まだ完全な体調じゃないだろう?簡単な誘い言葉が、ソンジュンの口から出ることはなかった。
ユニは、図書館で会えたときに一緒に勉強することを約束した後、ゆっくりと立ち上がった。そして少し頭を振った。めまいなどがしないか確認したのだろう。それから、一緒に立ち上がったソンジュンの正面に真っ直ぐに立ち、軽く頭を下げた。
「本当に助かりました。飲み物を買いに行く元気も、ここで座り込んでしまったら失せてしまって・・・。今日は勉強はお休みして、家に帰って早めに休みます。」
立って向き合って、初めて分ったソンジュンとの身長差のせいで、頭を上げてソンジュンの顔を振り仰いだユニの表情をまともに見てしまい、ソンジュンは舞い上がった。大きな瞳がクルンと上目遣いにソンジュンを見つめてくるのだ。正直、可愛いにもほどがある。
ソンジュンは舞い上がって我を忘れた勢いで、ソファに転がった水のペットボトルをものすごい速さで拾い上げると、それをユニに押しつけた。そして早口で言った・・・はずだ。念のために持って帰って、帰宅途中でも時々水分補給をしたほうがいい、と。その証拠に、ペットボトルはソファの上から消えていたし、だからこそ駐車場に向かうソンジュンの手には新たに買い直した水のペットボトルがあるのだが。
その冷たい感触が、更にソンジュンに課題を囁く。
なんて気の利かない。ユニに渡したペットボトルは、買ってから時間が経っていたのと、ユニの首筋に当てられていたこととで生ぬるくなっていた。いくら未開封だと言っても、あれはないだろう、と自分の喉の渇きを潤すために買った水の冷たさによってようやく気づいたのだ。その大失態に、花丸は消えていき、シールはめくれて剥がれてしまった。コメントだって、『頑張りましょう』に変更になった。ああ、勉強とは勝手が違う、とソンジュンは自分自身にがっかりしてしまう。
けれど、明日から、彼女に声を掛けられる、同じテーブルに座ってもおかしくない程度には顔見知りになれたんだ、それだけが今日の課題だったとしたら花丸でいいんじゃないか、とソンジュンは何とか自分のモチベーションを上げた。