人類最年長 島田雅彦 | (本好きな)かめのあゆみ

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奥泉光さんの

東京自叙伝

は東京の地霊が語る

1845年から現代までの

自叙伝だったが

島田雅彦さんの

人類最年長

は精霊に棲まれて不死となったひとりの男の

1861年から現代(そして未来)までの

人生を描いている。

 

1861年生まれだから

2020年で159歳。

 

江戸時代の終わりから

明治維新

大正

昭和

平成

そして令和

をまたいで生きている男。

 

よぼよぼになるのではなく

壮年期のまま生きている。

 

これもテロメアのおかげ。

 

世間に不審がられるので

途中で他人の戸籍を手に入れて

別人となって暮らすが

名前以外の体と心は元のまま。

 

本人の望むと望まないとに関わらず

数多くの

戦争

災害

経済の浮沈

そういったさまざまな世相の激変を体験する。

 

なにしろ159年分だから。

 

世相とは無関係に

個人的にも数多くのひとびととの出会いと別れを繰り返す。

 

そのなかには長寿ゆえの出会いと別れもある。

 

自分だけが健康で159年も生きている男からみた

その他のひとびとが繰り返す日々の営みの描写は新鮮だ。

 

特に

戦争

愚かなことを繰り返す人類の象徴だ。

 

経験したことのあるひとなら

それがいかに馬鹿げたことかが確信できる。

 

戦争を肯定的に捉えることができるのは

ただ単に経験したことがないひとか

あるいは戦争で自分が利益を得ることを知っているひとだけだ。

 

戦争で利益を得ることができるのはほんのひとにぎりのひとだけで

その他大多数のひとはあとで後悔することになる。

 

ゆめ踊らされてはいけない。

 

とまあぼくが書くと説教臭くなってしまっていけないのだが

そこは島田雅彦さんの作品。

 

ひょうひょうとした滑稽味が全編に漂っていて

すっきりと読ませる。

 

夏目漱石作品に出てくる

高等遊民的な味わいがある。

 

もちろんフィクションなので

どこまでが史実でどこからが創作なのかが怪しいところもある。

 

おっぱいのくだりは

なぜここでそうなるの?

って感じだったけど

まあ憧れの展開ではある。

 

人間関係ができているからこそ許される要求ですね。

 

人類すべてが不死になってしまうとまた違う物語になるんだろうけど

ひとりだけが不死という状況がこういう物語を生むんだと思う。

 

しかも権力者とか時代のキーパーソンではなくて

ふつうの市民がひとりだけ不死

っていうところがいい。

 

人間は過去の歴史を教訓とすることができない。

 

自分が経験したことしか理解できないのだ。

 

いや

自分が経験したことでさえ理解できていないかもしれない。

 

繰り返す過ちはそのことを裏付けている。

 

もういい加減

歴史から学ぶことを覚えなければならない。

 

 

 

 

 

--人類最年長--

島田雅彦