ひる(23) | (本好きな)かめのあゆみ

(本好きな)かめのあゆみ

かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

  塔には入口があった。あたりにひとは誰もいない。扉を開けて中に入る。

 扉を閉めると激しい雨の音が遮断されてしんとする。内部は明るい光で照らされていて、それが白い壁に反射している。眩しいくらいだ。

 扉を入ってすぐに上へ昇る階段があった。階段の三段目に簡素な看板が立っている。

  展望レストラン。そういえばそろそろ昼食時だ。朝食を自宅と喫茶店であわせて二回も食べたのでさほど空腹なわけでもないが、塔の内部に興味がわいたので階段を上がることにする。

  らせん状に塔を昇っていくようだ。この階段に限らず、らせん階段を昇ったり降りたりするときには、いつもDNAを思い出す。デオキシリボ核酸。生物の遺伝情報が詰まっているというその物質。

  しかし思い出すのはその性質ではなく、二重らせんのかたちだ。不思議なうつくしさを感じる。どことなく異界へとつながるような気配も。

  たとえば、いま昇っているらせん階段のほかにそれと対称の知られざるもうひとつのらせん階段があって、こちら側のらせん階段を昇っていくと、そちら側では降りていくことになり、どこかの一点でふたりの自分が出会うというような。

  五分ほど階段を昇ったが、まだレストランには着かない。思ったよりも長い階段だ。

  レストランまであと何段、などの表示があればいいのだが。

  窓もないので、どこまで上がったのかもわからない。照明の明るい光に照らされた白い壁と白い階段。頭上には数十秒後に歩くことになる階段の裏の面が斜めの天井になっている。

  もしかするとこの階段は非常階段か何かで、階段を昇りはじめる前によく観察していたらどこかに展望レストラン行きのエレベーターがあったのかもしれない。