いつのころからか
ラブ・ストーリーはあまり読まない。
想定される恋愛のバリエーションなんて
さほど多いわけではなくて
古今東西あまたの作家たちが描いてきたことにより
もうほとんど出尽くしていて
だからひととおりのパターンを読んでしまえば
もうあたらしい発見なんてない。
この作品も読み始めはそういう風に思いつつ
やや退屈にも感じていた。
でもまあ
読んでよかったと思う。
この抑制のきいた
おとなの恋愛。
もちろん目新しい恋愛というわけではないが
現在のぼくの気持ちになんとなくフィットした
ってことなんだろう思う。
お互いの環境や感情を忖度しすぎて
ちょっと確認すれば防げるはずの
誤解や行き違いをそのままにしてしまう。
ああ忖度。
それは一種の思いやりには違いないのだけれど
勘違いや思い過ごしの危険をはらんでいて
やはりことばで確認しあうっていうのも
必要なコミュニケーションなのだと思う。
たとえそれが野暮ったくて無粋であるとしても。
ことばでいわなくてもわかってほしい。
恋愛のある時期にはそれもありえる。
けれどもいつまでもそれが続くというのは
むずかしい。
ふたりの忖度の描写が
もどかしくはがゆいのだが
それは抑えの利いたおとなの行動でもあって
なんだかとても身に染みる。
自分のことをわかってほしい恋愛から
相手のことを理解したいと思う恋愛に。
この物語の続きについて
だれかと一緒に想像してみたい。
--マチネの終わりに--
平野啓一郎