さっぱりわからなかった
水声
から一転。
この作品はなかなかいい。
独特の
ふわふわとした
とりとめのない
つかみどころのない
たおやかな
文章に
やや落ち着かなさを感じながら読んでいたのだが
この作品の
幻想的な
神話的な
寓話的な
退廃的な
世界観にはそれが絶妙にフィットしている。
描かれている不思議な世界を
よくわからないまま読み進めていくのだが
ページをめくりながら少しずつ少しずつ
この作品の世界になじんでいく過程がここちよい。
たしかに
ぼくたちの住むこの世界だって
よくわからないまま生きていくなかで
少しずつ少しずつなじんでいくのだから。
手に入れた技術によって人類は
繁栄していくのか
それとも
破滅に向かうのか。
はかなく
よわよわしく
しかし
やさしく。
生命は死の気配を漂わせ
死には生命の萌しが内包されている。
大きな母
母たち
見守り
そして
あなたたち。
気の遠くなるような歳月。
消え行く世界
そして
創世。
現状から想像を膨らませて導き出す
ありえそうなひとつの未来。
人間は決して客観的な判断ができない。
それは人間の志向性のゆえ。
そのバイアスの
おろかさ
こっけいさ
あいらしさ。
--注意深く観察すること。結論はすぐに出さないこと。けれど、どんな細かなこともおろそかにせずに記憶にとどめておくこと
--大きな鳥にさらわれないよう--
川上弘美