桐野夏生作品
初めて読んだ。
おお。
噂に違わず
いけずな表現が光っている。
人間の内面の暗部を
白日のもとにさらけ出すその意地悪な描写。
ほんとうにどうしようもない登場人物たち。
こんなひどいやついないよ
って思いながらも
どこか自分にもまわりのひとにも思いあたることだらけ。
バラカ=薔薇香
の奇想天外な境遇は
あまりにもつらすぎる。
こんなことってあっていいの?
ってこれはまあもちろんフィクションなんだけど
どこか現実と重なる部分もあって
痛々しい。
それなのに
次はどうなるんだろう?
ってページを繰る手が止まらないのは
バラカに幸運が訪れてほしい思いと
バラカの不幸に興味が湧くのと
相対するふたつの感情のせい。
シャーデン・フロイデ。
それは
傷のある喜び。
あまりにもバラカとその周囲のひとたちが
ひどい目にあっていくさまは
救いがなさ過ぎて
まるでエドワード・ゴーリーの
不幸な子供
と重なる。
東日本大震災と
福島第一原子力発電所の事故が
物語に決定的な影響を与えているので
ついつい現実に寄せて考えてしまい
陰謀の影をみたような気にもなってしまいかけるのだが
やはりそれは自分の気持ちの作品への過剰な投影といえるわけで
あくまでもこれはエンターテインメント作品であるという
割り切った感覚で読まないと間違ってしまうだろう。
で
たぶんそんなふうに間違った読み方をしてしまうひとは
たくさんたくさんいるだろう。
それは作者の思惑通りなのだけれども。
登場人物ひとりひとりのねじ曲がり方がひどいので
誰にも感情移入できないし
誰を信じていいのかもわからないのだけれども
そういうことも含めておもしろいエンターテインメント作品である。
つらい境遇でも
妙にポジティブなわけでもなく
極めてクールに現実的にそしてシニカルに
サバイブしていくバラカは注目に値する。
つらいけれども
生きることは闘い続けること。
もちろんときには
ただひたすら無条件に癒されたいこともある。
そして愛。
--バラカ--
桐野 夏生