江國さんの小説を読むのはたぶんこれが初めて。
淡々としつつも精細な感情の描写。
女性らしさを感じるというのは偏見だろうか。
たぶん主人公は就学前の幼稚園児である拓人。
姉、母、父、隣家の老婆、拓人のピアノの先生とその母、近くの霊園で働く男、そして。
それぞれの視点で次々と語られるそれぞれの心情が
とても緻密でなまなましい。
父の身勝手さはとうてい理解できるものではないけれども
微妙なバランスで成り立っているような気がするのは
これが小説の世界だからか
それとも現実にもこんな関係っていうのはあり得るのか。
父ってば開き直ってるしな。
それもこれも甲斐性があるからなのか
魅力のなせる業なのか。
女性は憤りながらもこういう状況をたのしんでいたりするものなのだろうか。
まあ、モテる男を好きになるにはそれなりの覚悟が必要ということか。
ちょっと羨ましかったりもする。
おとなの事情のあれやこれやが不穏に進むなか
拓人の視点で描かれる部分がとても興味深かった。
もしかしたら言語を獲得するまでのこどもの視点って
ほんとうにこんな感じなのではないだろうかって思える。
それは実に豊かな感性の世界。
じゅうぜん。
言語はひととひととの関係を豊かにもするし荒廃もさせる。
人間の苦悩のはじまりは言語の獲得なのかもしれないななんてことも思う。
でも一方で誰かのことばを欲している自分がいるのは間違いない。
小説は言語を積み重ねることによって言語を越えようとしているのか。
直線的で起伏に富んだ小説も好きなのだが
こういう無時間的な感情の機微を描いた小説を読んでいると
誰かの頭のなかを覗いているような気がして
ちょっぴり官能的な気分になる。
--ヤモリ、カエル、シジミチョウ--
江國香織