新境地?
おもしろかった。
あいかわらずひとを食った島田節も健在ながら
時事問題に鋭く切り込んでいる。
あるインタビューで
フィクション作家が現実問題を書かずにいられない現在の状況は異常
というようなことを言わせた作品である。
たしかに
小説家があまりにも現実を素材にしすぎるのは
ぼくの好みでもないのだが
近年の島田雅彦さんの言動からすれば
この作品は必然だろう。
綿密に取材や研究を重ねたであろう
政治的な仮説のオンパレード。
なるほどそういうふうに世界は動いているのかもな
と思わせる説得力がある。
右側のひとも左側のひともそのどちらでもないひとも
それぞれ知っておいて損はない仮説だ。
もちろん
いかなる場合も鵜呑みはご法度というのは前提。
うっかりすると
これは政治小説か?
なんて思ってしまうようなリアルな描写であるが
そこはもちろん作者が島田雅彦さんであるだけに
変幻自在である。
スパイである主人公の星新一
(登場人物のネーミングがいちいち危なっかしい)
がコントロールする7つの人格は
つまりは日本のさまざまな立場のひとびとの象徴でもある。
ひとりの葛藤は多の葛藤であり
多の衝突はひとりの衝突である。
賛否はさまざまあるだろうが
この作品が出版できるうちは
まだまだ日本の言論の自由は安心。
とはいえ
これを映像化しようっていう奇特なひとや組織はないだろうな。
抗議が殺到しそうだ。
でも
テレビでドラマにしたら結構おもしろいと思うんだけどな。
ラストの松平首相の演説は
チャップリンの“独裁者”の演説にインスパイアされてる?
--虚人の星--
島田雅彦