原題は
“IT CHOOSES YOU”
ミランダ・ジュライさんの作品を読むのは
“いちばんここに似合う人”
に続いて2冊目。
正直なところ
“いちばんここに似合う人”
についてはいまとなっては何も内容を覚えていない。
でも
このひとの書く文章のセンスがぼく好みなのだと思う。
この作品も読み始めてすぐに
これはぼくの好きな文章だ
と思って気持ちよくなった。
といってもこの作品は小説ではない。
インタビュー集のようなものだと思う。
けれどもただのインタビューではない。
ふつうのインタビューは
インタビューをされるひとにスポットライトを当てるものだと思うが
このインタビューでは他者へのインタビューを通じて見つめた
作者自身の思いが綴られる。
“ペニーセイバー”という
無料で家庭に配布される冊子に掲載された
“○○売ります”
みたいな記事の投稿者に連絡し
そのひとにインタビューするという趣向。
投稿者はみなふつうのひとびとだ。
といいたいところだが
会っていってわかるのは
投稿者たちに共通するある特徴だ。
見方によってはけっこうイタイひとたちだったりする。
読んでいていたたまれなくなるとともに
得体の知れない優越感を感じたりする。
自分はこのひとたちとは違う世界に住んでいるって感じたりして。
そしてそんなことを感じる自分をいやらしいと思う。
せっかくインタビューに応じてくれているひとたちを
こんなふうにこきおろしても大丈夫なのか?
怒ってこられないか?
と心配になる部分もあるが
その微妙な加減がとても興味深い。
作者の文章は比喩もおもしろい。
あっ、そんなところからひっぱってくるの!
とか
そういう手もあったか!
みたいな。
で
インタビューする者とインタビューされる者との
奇妙なやりとりをいくつか読んでいって
まあおもしろいけどやっぱり内容は記憶に残らなさそうだな
と思っていたら
終盤で思わず涙腺がゆるむところが2か所あった。
小説じゃないのにそんなことってあるの?
って感じ。
アメリカだなあと思わせる作品であった。
ところで
これを日本でやると
やっぱりちょっと生々しくなってしまうから無理だろうな
とも思う。
--あなたを選んでくれるもの--
ミランダ・ジュライ
写真 ブリジット・サイアー
訳 岸本佐知子