私の恋人 | (本好きな)かめのあゆみ

(本好きな)かめのあゆみ

かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

“太陽”“惑星”に続く第三作。


やっぱりぼくはこのひとの作品は好き。


時間と空間を縦横に行き来する壮大な妄想。


一人目の私

二人目の私

三人目の私

そしてまだ見ぬ私の恋人。


一人目の私は10万年くらい前のシリアあたりで

知能が高すぎるが故に孤独を好み

洞窟に引きこもり

あなた方人類の未来について

目を瞠る精度で妄想するクロマニョン人。


二人目の私はニ十世紀の戦争に巻き込まれ

ナチスの強制収容所の独房で飢えに苦しみながら

一人目の私が出会いたがっていた私の恋人について

夢想するユダヤ人。


三人目の私は現代の日本でIT関連の仕事に携わる日本人。


10万年の時を経て

ようやく出会えたかもしれない私の恋人は

ほかの男(あるいはその男の思考)に夢中だったりして。


1周目

2周目

3周目。


行き止まりの人類の旅。


人類は行き止まりまで到達すると

あらたにルールを変更し

そのルールを行き止まりまで敷衍するべく

再び次の周回に突入する。


はたして

3周目はどのように終わり

4周目はどのように始まるのか。


そして

三人目の私は

私の恋人かもしれない彼女を振り向かせることができるのか。


相変わらず淡々と粛々と描かれているが

このテーマだとラストのクライマックスはもうすこし抒情的に描いてもいいかもしれない。


あえてそうしないところもぼくはいいと思う。


最後の9ページは淡々としているようでも特に熱い。


自動的に与えられるのではなく

自ら能動的に求めていく読書のカタルシス。


世界の仕組みはすべてこの作品に描かれている。


こんな大仰なことをいうと私の恋人は首を傾げながらこういうに違いない。


「そうかしら?」


ところで

読みながら表紙のあの絵は不思議に魅力的だと思っていたが
ぼくが好きなあの画家の作品だったとは。


作品の世界観にぴったり。





――私の恋人――

上田岳弘