アルバム“日出処”の9曲目。
最近この曲がお気に入り。
呟くようなヴォーカルと物憂げなピアノの音からスタートし
途中からギター、ベース、ドラムが加わって
華やかでおしゃれなムードに展開するのがいい。
で
またこの曲に載せた詞がステキ。
詞を林檎さん自身の感情と重ねるのには意味がない。
むしろ普遍的な女性の感情なのではないか。
誰かの母になること。
――あなたの命を聴き取るため、代わりに失ったわたしのあの素晴らしき世界。
――さよなら、あなた不在のかつての素晴らしき世界。
子どもを授かることは紛れもなく幸福なできごとではあるし
その幸福の実感はもちろん子どもへの愛情も確かにあるとしても
ときには
母になる前の自分の生活
あるいは
母にならなければあったかもしれないもうひとつの生き方
がもう経験できないことに
さびしさや喪失を感じることはあるだろうし
あってもいいと思う。
決して子どもに愛情が湧かないわけではなくて
愛情はあるけれども同時に子どもがいない生活はもうないっていう事実を思えば
失ったものへの憧憬だって生じるだろう。
普通なら子どもを授かった喜びを歌にするところを
こういう視点で提示してくる林檎さんの感性が
計算ずくであるとしてもやはり眩しいのである。
――ありきたりな女――
椎名林檎