短篇集の表題作である
炎上する君。
主人公ふたりの
自意識こじらせ具合が最高に愉快で切ない。
そしてブレークスルー。
梨田と浜中は高校時代からの友人。
浜中の当時のあだ名は「戦中」「学徒動員」。
梨田も負けてはいない。
以来
一貫して
女性をルックスで判別しようとする
男女を遠ざけてきた。
男だけではない。
女もだ。
ところで
ふたりは頭脳明晰。
最低限の生活なら
働かなくてもやっていけるくらいの
収入源を得る。
安アパートで暮らし
一緒に銭湯に通うのを愉しみにしているふたりだったが
あるとき
足が炎上する男
のうわさをききつける。
ふたりでその男を追い求める生活が始まるのだが
その展開が実に滑稽でユーモアにあふれている。
しかも
ルックス至上主義の世間への抗議が
しっかり込められている。
その価値判断
おかしくありませんか
って。
とはいえ
ふたりのこじらせ具合もまた
気の毒なくらいだ。
むしろルックス至上主義を否定するあまり
自分のなかにある当然の女性性を抑圧してしまうという。
足が炎上する男
っていうのも突拍子もないアイデアなのだが
それが実にいきている。
それにしてもこの作品を読んでいたら
銭湯に行ってゆっくり湯船に浸かりたくなるし
ふたりが演じるバンド“大東亜戦争”のライブにも
行ってみたくなる。
暴走する自意識。
パンクでおもしろい。
この短編集はどの作品もアイデアが効いていて
奇想天外な寓話集って感じで
ぼくの好みだ。
ほかの収録作品は
太陽の上
空を待つ
甘い果実
トロフィーワイフ
私のお尻
舟の街
ある風船の落下。
前の記事で感想を書いた
空を待つ
もそうだけど
不思議な熱のある物語だ。
――炎上する君――
西加奈子