リディア・デイヴィスさんの“話の終わり”に次いで読んだ岸本佐知子さん訳の北米文学。
ミランダ・ジュライさんの“いちばんここに似合う人”。
原題は
No one belongs here more than you.
英文和訳の例文みたいなタイトル。
この小説の文章の感じは、とてもボクゴノミ。
川上未映子さんの“愛の夢とか”が好きなひとは、きっとこの作品も気に入るはず。
270ページくらいで16編の短編集。
登場人物はみな、どことなく社会不適合者っぽくて、いわゆるイタイ感じのひとばかり。
ぼくのようなオーソドックスな人間には似ても似つかないような変わった嗜好のひとたちなのに、読んでいると自分の感覚とダブってくる。
裏表紙の惹句が言い得て妙。
――孤独で不器用な魂たちが 束の間放つ、生の火花。カンヌ映画祭新人賞受賞の映画監督による、とてつもなく奇妙で、どこまでも優しい、16の物語。フランク・オコナー国際短編賞受賞。――
孤独で不器用。
たしかにその通りだ。
たとえば、1階と2階でシェアして暮らしている2階の女性が1階の夫妻の男性に一方的に妄想を膨らませたり。
会ったことさえない友人の妹への恋心を妄想の中で膨らませる中年の男だったり。
ティーンネイジャーの女の子どうしの危ない共同生活とか。
上司の妻に興味を抱いて近づこうとする女性秘書とか。
倦怠期のカップルが、映画のエキストラを演じているときだけ燃えるように愛し合えたりとか。
“あたしはドアにキスをする”のフィニッシュなんて最高。
“子供にお話を聞かせる方法”のフィニッシュも背筋が寒くなる絶妙のシチュエーション。
どの話も、それぞれにユニークで、ここでしかきっと出会うことのないような世界。
感情の表現がずば抜けて唯一無二で心地よい。
結構、読むのに時間をかけたのだが、最後の1話が終わるころには、これでこの本の世界ともお別れか、とかなり残念な気持ちになった。
翻訳小説が苦手なひとでもこれならいけるんじゃないかな。
岸本佐知子さんによる訳者あとがきも熱がこもっていて必読。
――いちばんここに似合う人――
ミランダ・ジュライ
訳 岸本佐知子